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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 332

だが、これは口の中が苦くなるような敗戦だった。
完璧な騎乗をして負けたと言うだけでなく、誰も彼の騎乗を責めない。
責められる理由も無いのだが、責められないと言う事が余計に心が痛かった。
だからこそ来年はと誓う・・・
クリークと共に来年こそ頂点に立つのだと心に誓う悠だった。


その同じ週に行われたマリブステークスは、樹里が観戦に行けない中ノースウインドは3着。
最終コーナーで不利を受けながらもよく健闘したとクリスが言うぐらい負けても強い内容だったようだ。
この内容を見てクリスからサンデーサイレンスと共に中東遠征を勧められ樹里も了承。
サンデーサイレンスはサウジカップに、ノースウインドはリヤドダートスプリントに登録する事となった。

そんな来年の予定が決まった所で、平成最初の年が暮れたのであった。


明けて1990年ーーー

前年の激戦と押せ押せのローテが祟ったこともあってオグリキャップは春シーズンを全休することになった。
脚元などには問題はなかったのだが、有馬記念のレース前から疲れが残っていたのは明らかで…

笠松時代の調教師である鷲谷はそれが一目でわかるくらいだった。

「食欲が、かなり減っているな・・・」
「ええ・・・それでも他の馬より食ってますがね」

鷺谷と瀬戸内厩舎の厩務員がそんな話をする。
確かにオグリキャップは疲労で食欲を落としていた。
だが、そもそもオグリキャップは一食で普通の馬の1日分を平らげても足らないので、今は適性な馬の食事量より多い程度であった。

「難しい所だな・・・レースに出さねば体重超過、出せば疲労だものな」
「ええ・・・難しい馬でテキも毎日頭抱えてますわ」

2人で苦笑するしかない怪物の欠点。
鷺谷もローテーションに関しては地方だと普通ぐらいなのもあり気にはしていなかったが、やはり1レースの疲労度が地方とは大違いだ。
だけに難しい調整を四苦八苦しているのだろう。
故に鷺谷はむしろ瀬戸内厩舎のスタッフには同情していたぐらいだ。

「だからリフレッシュも兼ねて、北海道の牧場に明日ぐらいから戻す予定とテキが言ってましたわ」
「そうか、余程信頼できる所なんだな」

厩務員の言う通り、報告を受けたオーナー代理の祐志から涼風ファームでの放牧が提案され、瀬戸内調教師もそれに同調していた。


同じく有馬記念で敗れ、明けた新しい年に巻き返しを誓うスーパークリークは激戦の後も馬体に異常はなく、体調も問題は無し。
春は大阪杯、天皇賞、宝塚記念の王道3レースに照準を定める。
ライバルのイナリワンも目標は同じで、こちらは阪神大賞典から始動。

濱松厩舎の3歳牝馬2頭も順調で、2歳女王アクアパッツァはフィリーズレビュー、ディザイアはチューリップ賞からの始動となる。

そんな中、涼風ファームの娘達の中で大きな決断をした者がいた。
新田裕美の次女、亜紀である。

彼女は騎手を志望し、見事に競馬学校に合格。
今年から3年間通い、中央の騎手デビューを目指すのだ。

「それで、凄く悩んでいると?」
「はい・・・内容がつまらないと言うか・・・重要と言うか・・・」

涼風ファーム訪問でそんな相談めいた報告を聞いた樹里。
母親の裕美はどこか言いにくそうにそれを話す。
つまるところ、亜紀はヤリたい盛りの年頃で、3年間の男断ちが辛いと言う話らしい。

確かにこれは言いにくいだろう。
聞いた樹里の反応も苦笑しかない。
ただ樹里も理解できない内容ではないのも事実だ。

「では、入学まで預かりましょう」
「えっ?!そこまでの事をっ?!」

裕美の驚いた顔に樹里はまた苦笑してしまう。
打算があってこんな話をしたのではなく、裕美のは只の愚痴に近い。
ただ打算にも見える話をついうっかりしてしまうぐらい天然な所があり、そんな部分がかつては男につけ込まれたりする部分でもあった。

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