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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 331

3コーナーを過ぎ、4コーナーに差し掛かる手前で逃げるダイナカーペンターにオグリキャップが並びかける。
南がダイナカーペンターの鞍上、増川の方をチラリと見た後、一気にオグリキャップが先頭に立ちスパートをかける。

背後につけていた悠はオグリキャップが少々早仕掛けだとは思いつつも内心ほくそ笑む。
ヒタヒタとスーパークリークを進出させ、直線で捉える態勢は整っていた。

オグリキャップ鞍上の南が眉をピクリと動かす。
思った以上にオグリキャップの手応えが無い。
ある意味、一番懸念していた疲労の蓄積・・・
突き放す瞬発力は失われていた。

ならばと南は気合いの鞭と共に力でオグリキャップを押し込む。
オグリキャップの心に火を点けて猛火を起こす。
南が最も得意とする事だ。
後は火が燃え盛りさえすれば、驚異の粘りを見せてくれる。
そう信じて南は追ったのだ。

だが、クリークと悠にとって今のオグリキャップは挑む相手ではない。
手応えが違うのだ。
直線入り口でオグリキャップに肉薄し、直線半ばの坂で鈍るオグリキャップを交わしきる。
抵抗すら許さない見事な差し切りだ。

しかし・・・
そのクリークですら凌駕するものがいた。
外へ持ち出し順位を上げていった柴原とイナリワン。
最終コーナーでチャンスと見るや内側に切り込む。
ベテラン故の勝負勘・・・
そして、前が開けたと同時に叫び鞭を振るう。

「食らいつけぇっ!!」

ドゥンと小さな馬体が爆ぜる。
それは爆破と呼んで良い程の加速だった。

グングン加速していくイナリワン。
馬群を捌き前との差を一気に縮めていく。
一緒になって上がっていくサクラホクトオーもいい手ごたえだったが、イナリワンはさらにそれを上回る勢いだった。

一方でオグリキャップは南の激励にも応えるところがなく、失速気味になっていく。
スーパークリークとの差はどんどん開いていき、好位集団で追走していた古豪ランニングフリーに交わされてしまう。

更に並ぶ間も無くイナリワンが猛然と追い越していき、少し遅れてサクラホクトオーが交わしていく。
それをオグリキャップは見送るばかりで、今まで発揮してきた驚異の粘りを見せる事は無かった。

そしてクリークと悠。
ゴールまであと僅か。
クリークにはまだ余力はある。
あの狂乱のジャパンカップとは違う。
己のレースを淡々とこなし、理想的なレース運びができた。
だが、そんな悠に牙を剥いたのは、かつて彼の手で栄冠を得た馬だった。

猛追するイナリワンが追いつき並びかける。
勢いの差は歴然・・・
クリークに無い豪脚で並ぶイナリワンとほぼ同時にゴール。
ゴールを過ぎた所で悠は愕然としたのだ。

オグリキャップと言いイナリワンと言い、余りに理不尽で常識外れだった。
彼が惚れ込んだクリークとは違う・・・
スピードとスタミナを高いレベルで兼ね備え、精密機械のようにレースを作り上げれるクリークは、ある意味完成されたサラブレッドと言えた。
だが、その完成品が非常識に打ち破られたのだ。

ゴール板を通過したのはほぼ同時。
写真判定に持ち込まれるが、悠には自分が、クリークが負けたことがゴールしてすぐにわかっていた。

ありえない。
あの競馬で負けたなんて。
しかし同時にそのありえないことが起こるのも競馬なのだ。

イナリワンにも騎乗し勝った経験のある悠は、そう自分に言い聞かせた。

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