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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 330

その人気のオグリキャップ。
パドックでは落ち着き払った周回で貫禄を感じさせていた。
だが、馬を引く厩務員は若干の異変を感じていた。

本来、元気な時のオグリキャップならレース前の気合い乗りで2人引きでも持っていかれそうになるぐらいパワフルに歩くのだが、まるで厩舎の中に居るぐらい落ち着いてしまっている。
この調整期間もやや食欲は落ち気味であった。
ただ、落ちたと言えど、一食で並の馬の一日分食べていた大食漢が、並の馬より食べてはいるから不調とまでは言い切れず・・・
むしろ体重調整と言う意味では軽い運動で済ませれて疲労回復に当てれていたから、陣営もそこまで不安視してはいなかった。

当然、記者や評論家達もオグリキャップ不調と判断した者はいない。
やや疲労は溜まっているだろうと思ってはいたが、何しろ常識の通用しない怪物なのだ。
大半が本命視したのは当然とも言える。

だが、パドックでクリークに跨った悠は、オグリキャップのその雰囲気を見逃さなかった。
澪から聞いたオグリキャップの好不調の見分け方が頭にあったからだ。

注意深く見たのはオグリキャップのパドックでの歩様だった。
好調時と比べ力強さがないように見えた。

オグリキャップが調子を落としているのは明らかだ。
今度は勝つ。そのために何としても上手く乗ることだ。

馬場入りでもオグリが本調子では無いことを確認した悠はレースに向けての戦略をある程度定めていた。

レースはダイナカーペンターが逃げる。
オグリキャップが2番手につけるのを見た悠はすかさずそれをマークする形を取った。

(やっぱりね・・・)

悠はオグリキャップを後ろから見ながら呟く。
彼にとってアドバンテージと言えるのが、澪から聞けるオグリキャップの情報。
特に感覚の鋭い澪の視点は悠には無いものをもたらしてくれていた。

恐らくだが、南もオグリキャップの異変に気づいているのだろう。
疲労が溜まると瞬発力が鈍る所があるオグリキャップだけに、南はかなり前で勝負をしようと考えたのだろう。
早め抜け出しから驚異の粘り腰を発揮してトップでゴールを駆け抜ける・・・
そうイメージしてるのだろう。
あのジャパンカップの狂乱ハイペースで粘った事を考えると、それはあながち間違っていない気がしていた。

だが、澪の見立てでは少し違った。
去年の有馬記念とほぼ同じ状態だったのが、前走のジャパンカップであり、昨年が長期休養になったようにオグリキャップは限界のラインを超えていると見ていた。
壊れる程ヤワな馬で無いだろうが、去年の状況から考えると瞬発力も勝負根性も期待はできない・・・
つまりまだ好調を維持しているクリークならば、後ろから行っても差し切れるだろうと考えていたのだ。


悠は一度クリークの手綱を引き、オグリキャップとの距離を少し置いた。
無理に追いかけなくても今日のこの2頭の状態を考えたら勝てるくらいの気持ちはあった。

ダイナカーペンターの逃げは平均ペース。
それを2番手で追走するオグリキャップ。
スーパークリークはその後ろで様子を伺う。

追走するクリークの手応えはいい。
悠は自信を深めながらレースを進めていたのだ。

一方、悠と同じく自信を持って乗っている者がいた。
イナリワン鞍上の柴原だ。
日本トップクラスの腕前を持つ柴原をして、イナリワンは厄介な猛獣だった。
小さな馬体に溢れんばかりの闘志・・・
その大き過ぎる闘志が邪魔をしてレースで無駄に消耗する。
天皇賞もジャパンカップも制御の利かない闘志のせいでイナリワンと柴原は喧嘩していたようなものだった。

だが、ここにきてようやくその喧嘩も終わったのかもしれない。
今日のイナリワンはフラストレーションを溜めながらも我慢しているのだ。
柴原と組んで初めての事だった。

「まだだぜ、まだだぜ・・・食らいつくのはまだだぜ」

柴原は言い聞かせるようにそう言うのを理解するように、イナリワンは我慢を続ける。
柴田とコンビを組んで初めて、柴原と勝とうとしているように思えた。
故に、今日こそいけると柴原も自信を深めていたのだ。

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