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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 328

これは十分なアドバンテージと言って良かった。

だが、ディザイアもインの道が開けた事で猛然と追い込んでいく。
松中の鞭でフラストレーションを一気に爆発させたディザイアは、インを掻い潜りながら次々と並ぶ間も無く抜かしていく。
同じく追い上げるツルマルベッピンやイクノディクタスなども、それ以上の脚で抜かしていった。
アクアパッツァに食らいつこうとするヤマタケサリーやエイシンサニーも勢いよく交わしていく。

そしてアクアパッツァまでは2馬身程、残りは100m・・・
直線の坂で勢いを削がれた先行馬もいる中、アクアパッツァは坂など関係ないとばかりに走り続けていた。
そのアクアパッツァを猛追し、凄まじい勢いで迫るディザイア。
悠も必死で追う中、あと少しの所でディザイアがアクアパッツァに追いついてきたのだ。

猛然と追い込んでくるディザイアの蹄音はもちろん悠の耳にも届いていた。
残り僅かの辛抱だぞと悠はパートナーに愛の鞭を振るう。

それに応えるようにアクアパッツァも必死に粘り込みを図るが、ディザイアの脚の勢いはそれ以上であり、ゴール前でついに馬体が合わさった。

そして2頭、鼻面を合わせながらのゴール。

松中は悠の方を見やる。
お互いにどちらが勝ったのか全くわからなくて、首を傾げて苦笑いする。

どちらも勝った感触は無い。
そんな中で長い長い写真判定・・・
ようやく出た結果は、アクアパッツァのハナ差勝ちであった。

負けたディザイアの松中はこの敗戦にも笑みを浮かべていた。
アクアパッツァに完璧な騎乗をされながらも、ここまで追い詰めたのだ。
ここ内容には収穫しかなかった。

「本番に向けて良い走りができました」

記者に対して淡々とそう語る松中。
本番はあくまでクラシック。
負けはしたが、そこに向けて良いレースだったと言える。

「作戦通り良いレースが出来ました」

こちらも淡々と記者に答えた悠だが、松中に比べるとその声に若干の悔しさが滲み出ていた。
まるでこちらが負けたような口ぶりだが、悠からすればここまで完璧に騎乗したのにハナまで詰められた事に若干のショックがあった。
クラシックに向けて更なる成長が無いと逆転されかねない・・・
そんな危機感も感じるレースだった。


――馬主席。

「あれ、もっと喜んでると思ったけど?」
「理想は1着同着だったかな」

幼い娘を抱きながら笑う紗英の言葉に、樹里はため息をつきながらも笑顔だ。
それでも、久しぶりに競馬場に同行してくれた彼女にとってはいいプレゼントみたいなものを見せられただろう。

「桜花賞まではこんな感じかな、そのあとはオークスとNHKマイルで使い分ける、まあ先生と話し合ってから決めるけど」
「どっちにしても来年の春が楽しみだね」

そんな話をする紗英は元々凛とした雰囲気だったが、随分と母親らしい丸みを帯びた雰囲気となってきていた。
抱いている娘は3歳。
昔の紗英に似て利発で気の強そうな子だ。

紗英は今年の初めに第二子となる女児を産んでいて、夫婦仲は良好と聞いている。
その紗英の夫は家柄の良い御坊ちゃま育ちで、容姿も才能も平凡ながら穏やかでおっとりした感じであった。
紗英とは真逆のタイプだが、叔父によると婿養子として丁度良くて勝ち気な紗英にも合うとの事だ。
現に紗英が夫の事を言う時にはにかむ辺り、叔父の言う通りなのだろう。

紗英の家も女の子ばかりと言う事もあって、まだ子作り頑張りたいと言ってるようで、こちらは夫婦仲も良好・・・
ある意味穏やかで普通の夫婦関係であった。
そんな夫婦関係を樹里は素直に羨ましいと思うし、自分もこんな夫婦関係の選択があったかもしれないと夢想する事もある。
ただそんな夢想は以前に祐志に思い切り否定された事があった。

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