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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 33

スターライトブルーの母の父は生粋のステイヤーのスピードシンボリで、祖母の系統はメジロアサマと近縁だ。
つまりステイヤーになってもおかしくない血統だが、仁藤によると体格的にはシンボリルドルフやメジロアサマには似ておらず、短い距離で活躍馬を出していた頃のパーソロン産駒に似ている感じはするとの話だった。
だが、それは悪い事では無く、むしろ今の競馬に合っていると言えると言う話だ。

「近々、関西では坂路コースと言うのができるみたいで・・・それがスターライトブルーによく合うんじゃないかと仁藤先生が言ってました」
「それは楽しみですね」

栗東では現在、坂路コースが建設中であった。
これは幾つかの海外競馬で導入されている調教コースで、その調教効果は大きいとも言われている。
しかし、懐疑的な見方も多く、逆に美浦では導入計画は無く冷ややかな意見も多い。

「それから、この牧場の周囲の土地を習得するとの話ですが?・・・」
「ええ・・・いずれ牧場拡張や育成施設を作ろうかと」

それは実は、樹里の発案ではない。

勿論、牧場拡張計画は考えていたが、それはもっと時間をかけるつもりだった。
施設ができても人員の確保が必要だからだ。
樹里としては、それらを真奈達に任せたい以上、彼女達と上手くやっていける人材を集めたい意向があるからだ。

だが、そんな樹里を急かしたのは佐原祐志だった。

つい数日前、重賞制覇祝いと称してやってきた祐志。
食事と酒を飲んだ後に、やはりベッドイン。
樹里もそれを期待していたのもあるが、やはり祐志は天性のスケコマシで抵抗すら出来なかった。
そこで散々イカされた挙句、言われたのが育成施設の事だった。

「作っても人がすぐ手配できないわ!・・・それにあなたに関係無いでしょ!」
「いんや、佐原の馬をそこで育成する」

つまり、白幡に金を出させて佐原の施設を作れと言う話だ。
しかもリスクはあるがメリットもあると言う厭らしい話だ。

「人のツテもアイルランドにあってな」

普通の奴が言えば眉唾物の話だが、この男は只のスケコマシではない。
だから樹里も佐原の娘も手玉に取られたのだ。

自分からは派手に動かず、樹里を利用して甘い蜜を吸う。
そんな狡猾なやり方が祐志の得意技だ。

ただ、あまりに早い拡張は流石の真奈や幸子も難色を示したが、計画は前向きに動き出した。


樹里と娘たちが涼風ファームに滞在して三日目の昼頃のこと。
真奈や奈帆も混じってゆっくりと寛いでいると、来客を知らせるインターホンが鳴った。

「こちらが涼風ファームさんですか」
「え、ええ」

誰もが初めて見る顔の男性だった。
40代後半くらいで、穏やかな表情の紳士。

「育成上で見させてもらったモガミの仔がここで生産された馬だと伺ったので」
「はい」

真奈と男性のやり取りを耳にした奈帆の表情が曇る。
そして―

「あの子は誰にも売りませんっ!」
「な、奈帆ちゃんっ!?」

動揺する樹里と、驚く男性。

「ああ、いや、買うだとかそんな話じゃなくてね、ああそうだ。私は美浦で調教師をやってる奥原と言います」
「ああ、調教師の先生でいらっしゃったんですね」
「ええ、とてもいい馬に見えたので、所属厩舎は決まってるんですかって聞いてみたら、まだだという話だったので…」

奥原は期待の若手調教師と言われているのは樹里も耳にした事がある。
その調教師がレースのある週末に北海道に現れると言うのも驚きだった。

「週末にわざわざこんなところまで・・・」
「オーナーがここにいらっしゃると聞いたもので」

それでも驚きだ。
よほどこのモガミの子が気になっているようだ。

「今週、私の厩舎は出走馬はいませんし、丁度良い機会だったのですよ」

事務所の応接室に場所を移し、真奈の淹れるコーヒーと共に奥原と話をする。
元々健三時代から栗東を基盤としてきて美浦とは繋がりの無いのは樹里も同じだが、その事で仁藤調教師からも『美浦と付き合いを持っておいた方がいいですよ』と言われてはいる。
本来なら自分の所でと言っておかしくない仁藤の立場だけに、それは本当に老婆心なのだろう。

「どこが一番気になられたのですか?」
「こう言えば誤解されるかもしれませんが、美しさです・・・あそこまで均整の取れた美しい馬は見た事が無いんです」

そう語る奥原。
奥原は馬の美しさは実力に直結する事が多いと思っていた。

「確かに、あそこまで馬体にバランスも良くて足取りもしっかりしてる馬は、私も見たことはありませんでした」

奥原の言葉に真奈が頷いた。

「あの馬は、相当な大仕事をやってくれると思います」
「そうなると嬉しいですが…」

「牝馬なのが惜しいとも思わせますが、あの馬なら、牝馬三冠も夢ではないと思います」

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