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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 319

互いに得意な戦術を選択した訳だ。

イージーゴア鞍上のデイリーは、勿論自信を持って乗っている。
ベルモントステークスからG1を5連勝。
それも殆どのレースが主要G1である。
秋にかけての馬体の充実度も相まって、サンデーサイレンスより上位だと思っているからこそ、得意な戦術でねじ伏せる気でいたのだ。

対するエイミーは、サンデーサイレンスを気分よく走らせる事に終始していた。
兎に角気分を害せればレースを止めてしまうタイプだ。
やる気さえあれば負けないと思っている。
そのやる気にさせるスイッチも気分を害するスイッチも繊細かつ拘りが強く、付き合いが長いエイミーですら地雷を踏み抜く事が多々あるのだ。

ただ今日はここまで荒れてはいるが、これはご機嫌な荒れ方だ。
イージーゴアと言う強敵が居るのを意識しているし、それ故に荒れている。
つまりこれは、やる気のある荒れ方だ。

ペース自体は淡々と流れている。
サンデーサイレンスは逃げ馬の背後で彼なりの折り合いが取れた状態で走れている。
エイミーにしてみれば第一関門はクリアといったところだろう。

レースはそのまま淡々と4コーナーまで行くと見られていた。
それを打ち破ろうと後方から動き出した馬が1頭いた。
それがイージーゴアだった。

これは早仕かけと言う訳ではない。
コーナーリングが上手くスタミナもあるイージーゴアだからできるロングスパートだ。
クラシック2戦こそ落としたものの、ベルモントステークス以降はこれで圧倒してきた。

そんなイージーゴアに対してエイミーもサンデーサイレンスにゴーサインを出す。
待ってましたとばかりに加速したサンデーサイレンスは逃げ馬に迫る。
そのままレースは直線の攻防に移った。

直線に入り、サンデーサイレンスが逃げ馬を競り落とし先頭に躍り出る。
勢いは充分で、残りは200m。
猛烈な勢いでイージーゴアが追い込んでくる。
前の馬を瞬く間に抜かしていくイージーゴアがサンデーサイレンスに迫る。
勢いはイージーゴア。
抜かせまいとするサンデーサイレンス。
ジリジリと差が詰まっていく。

そしてイージーゴアの馬体がサンデーサイレンスと合ったかに見えた、その瞬間。
サンデーサイレンスもまた一伸びして見せたのだ。

「なんだと!?」
イージーゴア鞍上のデイリーはド根性を見せたサンデーサイレンスに驚き、必死にステッキを振り上げる。
その叱咤にイージーゴアも再びサンデーサイレンスに食らいついていこうとするが、そのたびにサンデーサイレンスが頭、あるいは首ひとつ抜け出すのだ。

デイリーもイージーゴアを必死に追うが、頭ひとつ抜け出したサンデーサイレンスとの差は詰まらない。
必死で追うエイミーに応えるように、目をギラつかせながら走り続ける。
彼の目には隣の漆黒の馬が只の馬ではない何かに見えてきた。

「悪魔か?!」

絞り出して呻くようなデイリーの言葉。
通過するゴール板。
そして届かなかった栄光。

またもや漆黒の悪魔が黄金の貴公子を退けたのだった。


ウイニングランでも荒れ狂って首を大きく振るサンデーサイレンス。
血走ってギラついた目は、己のヒールのように扱った観客達への怒りであるように見えた。
帰ってくるサンデーサイレンスを見る梓は、それは馬でなく肉食獣のように見えて身震いしてしまう。

「よくやったわ、エイミー!」
「ありがとう、お姉ちゃん・・・でも本当にサンディは凄いわ」

クリスがエイミーを称えるように言うと、俺の実力なら当然だと言わんばかりにサンデーサイレンスが嘶く。
そして周囲を見渡す彼の視線が梓に来た時、余りの恐ろしさに梓は祐志の袖をギュッと掴んでしまった。

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