PiPi's World 投稿小説

駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

の最初へ
 303
 305
の最後へ

駆ける馬 305

芦毛のサラブレッドはパドックでは状態の良し悪しが判断しづらいと評論家は言う。
もちろん梓にはそんなことはわからない。
ノースウィンドは綺麗な馬で、白い馬体はおとぎ話で王子様がまたがってやってくるような、そんな感じがした。

(頑張れ)

祐志から馬を驚かすような大声は出しちゃダメだよ、と以前から教えられている。梓は心の中でノースウィンドにエールを送った。

やがてレースで騎乗するクロエがノースウィンドにまたがって、下見所からコースに向かっていく。

レースはいつも通りのスロースタート。
後方からの競馬となる。
短距離戦においてどこの国でも前の方が有利なのは変わらないが、特にアメリカのダートはその傾向が強い。
故に不利ではあるが、スタートダッシュが苦手なタイプだけに後ろから行かざるを得ない事情がある。

ただスタートダッシュが苦手とは言え、その分後半に切れる脚を使えると言う利点を持っている。
クロエとしてはその利点を活かして競馬をするだけ・・・
それで負けるのは仕方ないと言う所だ。

とは言え、逃げ馬がかなりペースを上げてくれているから良い感じだ。
ノースウィンドも丁度良いペースに心地良く走っている。
ノースウィンド以外は古馬ばかりで、重賞勝ち馬も何頭かはいるが、サンデーサイレンスやイージーゴア級の一流馬はいない。
ならやれるだろうと、クロエは4コーナー辺りから仕掛けに入る。

最後方からまくるように思い切って動いていく。
馬場の外、かなりコースをロスしているようにも見えるが、それも問題はないとクロエは判断した。

直線も大外からグイグイと伸びてくる。
先行馬がさすがに飛ばし過ぎたか垂れていく一方で後続がドッと押し寄せる展開で、ノースウィンドは豪快に大外から古馬たちを交わしていった。

全て抜き去りゴールを通過。
クロエは満足した表情でノースウィンドの鬣を撫でる。
古馬相手とは言え比較的メンバーの薄い所を狙ったから、この勝利は彼女達にとって順当と言える。

「この内容ならノースウィンドを2つ程レースを使って、目標を12月のマリブステークスにするわ」

クリスも内容に満足しながら樹里にそう言う。
マリブステークスは地元サンタアニタで行われる1400mの3歳限定G1でクラシック惜敗組や短距離の強豪が出揃うビッグレースだ。

「ヴォスバーグステークスやブリーダーズカップスプリント辺りは駄目なのか?」

祐志が口を挟む。
どちらもアメリカの短距離路線の王道とも言えるレースだ。

「よく知ってるわね・・・彼のポテンシャルはそこで勝負できると思っているわ」

クリスのこの言い方で祐志は成る程と呟く。

「やはりスタートか?」
「そうね、もう少し前半を上手く走れればと思っているわ」

可能性があれば挑戦するばかりが調教師の仕事では無い。
クリスはむしろ堅実に勝ちを積み重ね鍛えていくタイプだ。

「彼は3歳でピークを迎え、終わってしまうタイプの馬ではないわ。そこにチャレンジするのは来年でも遅くはないと私は思うの」
「まあ、そうだな」

祐志もあえてレース名を挙げただけで、そこに使えと言っているわけではない。
彼女たちはプロであり自分は素人、彼女たちの判断を尊重すべきだと理解している。

SNSでこの小説を紹介

スポーツの他のリレー小説

こちらから小説を探す