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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 4

「厩舎に行って見させてもらったんですけどね、なんか大きくて風格があって、とても走りそうな雰囲気があったんですよねぇ」

「私もそう言う馬は何頭も見てきましたけど、1勝するのでも結構大変なことなんですよね」
「ああ、それは聞きました」

日本で1年に生まれるサラブレッドの数は7000から8000頭に上る。
その中でシンボリルドルフのようなスターホースになれるのはほんのごくわずかなのだ。

「スターライトブルー、2歳のパーソロンの仔のほうが順調で、間もなく栗東に入厩できるって話も聞いちゃいましてね」
「パーソロンで母父はスピードシンボリ、ルドルフと同じなんですよね。私も彼には期待してるんです」
「血統でレースをするわけじゃないのよ、って言うんですけどね」


「あ、そういえば」
樹里が何かを思い出したように言う。

「栗東の厩舎に行ったとき、ライデンを管理する仁藤先生からですね―」

***

「オーナーも新人さんでしたら、ちょうどよかった。澪、ちょっとこっちに」
仁藤調教師から呼ばれて、小柄な少女が樹里の前に姿を見せる。

「澪、こちらがシロノライデンのオーナーの白幡さんだ」
「あっ、あの、私…3月から騎手になりました、相沢澪と言います。オーナーの馬にも、乗せていただけたらっ」
「ああ、これはこれは…私も新米なので、よろしくお願いします」

***


「彼女、話題になってましたねぇ・・・中央初の女性騎手って」
「そうですね、私も新米ですからいい出会いだったかもしれません」

樹里と真奈が笑い合う。
あれを見た後で少し意識はあったが、同年代とあって打ち解けてきた感がある。

「では、来週の京都を楽しみにしてください」
「はい!3人でテレビですが観戦します!」

随分と雑談した後にそんな風に別れたが、そこから樹里は大忙しだった。

まず牧場の財務関係の資料を貰うとホテルでチェックし、借金額を洗い出す。
総借金額は五千万で複数の銀行から借り入れしていたが、ヤバい所から借りてない事は幸運だった。
しかも借金額も一般的には莫大とは言え、樹里からすれば問題の無い金額だ。

次の日から会社の登記関係の手続きを始めつつ、取引銀行回りをする。
その内の担当行員があの2人と行為していた男で思わず笑いそうになったが、全ての債務の清算を済ませた。
更に翌日には会社から司法財務専門の数人のスタッフを呼び寄せて作業させつつ、週末は京都に向かう。


3歳未勝利 2400m芝
樹里にとってオーナーとして初のレースだった。

本当は父の死で一旦馬主を止めるつもりで傘下企業の社長である叔父に法人馬主会社と所有馬を譲ってしまっていた。
この叔父も競馬好きで、馬主会社をクラブ馬主法人に切り替えたのだ。
その叔父の発想に驚きつつも、樹里は父を喪った虚無感で意欲が湧かない日々だった。
しかも、彼女自身の夫婦関係の破綻で、父の死まで待った離婚をしたのもそれに拍車をかけた。
だが、仕事面で叔父や従姉妹達や父の信頼していた部下達が支えてくれたお陰で少しずつ気持ちを取り戻した時、ふと4歳の長女に言われた言葉があった。

『お馬さん見に行かないの?』

昔からほぼ樹里を伴って競馬観戦に訪れていた。
それは結婚して出産した後もそうで、長女の梓も次女の楓も伴う事もあった。
それが当たり前の生活だったからか、長女にとって行ってない状況がおかしく思えたのかもしれない。

そんな話を樹里の秘書をしている従姉妹の紗英に話した所、その父である叔父がもう一度馬主をやってみないかと持ちかけてきたのだ。
縁のある涼風ファームのデビュー前の馬を戻すからやってみればいいと。

それが3歳のシロノライデンと2歳のスターライトブルー、そして1歳の2頭と合わせて4頭。

「樹里の手で鈴木さんとこの牧場を立て直せたら、忙しくなるくらい馬が増えるさ」

叔父は笑ってそう言った。そうなった方が俺は大歓迎だ、とも。
そんな周りの温かいサポートもあっての、馬主生活のスタートがシロノライデンのデビュー戦だった。

3歳未勝利。14頭立てのレースで、ここでデビューを迎えるのはシロノライデンの他に1頭。
あとの12頭は2戦目から多い馬ではここが15戦目という馬までが揃っていた。

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