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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 299

苦笑いの澪。
ただ騎手として、これだけの馬のオファーがあれば万全なら乗りたいのも正直な話だ。

「ただ、乗る前に乗られるかもしれないけどね」

そんな風に言いながらサンデーサイレンスに近づいたのは、主戦騎手のエイミー。
サンデーサイレンスはやや不機嫌に首を上下に振りながら近づいてきたエイミーの肩をガブリと噛む。
エイミーの方は慣れっこなのか、『ハイハイ』と言った感じでサンデーサイレンスを撫でる。
リアクションは派手だが、所謂甘噛みなのだろう。
本気で噛まれたら人間などひとたまりもないのだ。

「い、いつもこんな感じ・・・ですか?」
「ええ、そうよ・・・慣れたけど」

ここまで気性に問題があれば去勢されてもおかしくはないが、それが去勢せずやっていくとなると相当な忍耐が必要になる。
つまりウィッチ厩舎がそれだけ辛抱強くこの馬の面倒を見ていると言う事だ。
そして何より馬に対する愛情が見て取れて、澪はちょっと感動してしまう。

寛子の厩舎にも似たような部分があるが、ウイッチ厩舎のそれは寛子たち以上のものを感じた。

「この仔のことが大好きなんですね」
「手がかかってしょうがない仔だけどね。サンデーも私たちの家族なの。兄弟か、子供みたいなね」

国は違えど、馬への愛情はシャロンやセシリーと同じくらい、いやそれ以上のものを澪は感じた。

それだけにレースが楽しみな澪だった。


そのアメリカ三冠最終レースが行われるベルモントパーク競馬場はニューヨーク州にある。
ニューヨークの郊外にある全米でもトップクラスの規模を誇る競馬場であり、数々のビッグレースが開催される東海岸の競馬の中心地とも言える。

アメリカ三冠最終レース、ベルモントステークスは2400mとアメリカのダート競争においては長距離の部類に入る。
故に距離の壁によりここで涙を飲んだ二冠馬は多い。

そんなレースは三冠戦で初めてサンデーサイレンスが一番人気。
三冠への期待が全てを跳ね除けてサンデーサイレンスを一番人気に押し上げたのだ。

二番人気はイージーゴア。
黄金の貴公子は2度も土にまみれ、漆黒の暴君に一番人気の座を譲り渡していた。
だが、主戦のデイリーはさほど悲観はしていなかった。

「彼は強いが、全てが終わった訳ではないさ」

不敵な笑みは強がりにも見えるが、多少気負いはあってもまだ冷静ではある。
むしろ今までの重圧が消えている分、気楽になった部分はある。

10頭と少頭数。
ノースウィンドという「相棒」がいないレースは3か月ぶりということになるサンデーサイレンスだが、馬自身のご機嫌はいつもとそう変わらない。

それよりも

「綺麗な子ですね」
「そう、私も初めて見た時はちょっと心を奪われそうになったわ」

澪もイージーゴアの馬体に惚れ惚れと見入ってしまっていた。

毛並みの美しさだけでなく、馬体も完璧なまでに均整が取れている。
そして、超一流の血統背景と完璧。
落ち着いた佇まいは、こちらが二冠馬と言っても信じてしまうぐらい貫禄があった。
イレ込んで忙しなく動くサンデーサイレンスより格上に見えてしまうのだが、ここまでの2レースに勝ったのがこちらだから不思議なものだった。


そんなレースはサンデーサイレンスが先行、イージーゴアが追いかけると言う展開。
エイミーにとって心配事は距離だった。

本質的にはマイラーだとサンデーサイレンスの事を見ているが、持って生まれた柔軟性で多少の距離の壁は克服できるとは思っている。
だが性格の所・・・
イレ込んで体力を消耗させてしまうタイプだけに安心はできない。
だが、普通ではない精神力で走る馬だからこそ、ここでもそう簡単に負けるとは思っていなかった。

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