能力ではこのメンバーで上位だと思っている。
だからレースの内容が問われる訳だ。

目下のスターライトブルーの課題は、抑えた走りができるかどうかである。
スタートから弾丸のように飛び出し、スピードにモノを言わせて爆走する今のスタイルでは距離に限界が来る。
本来、中距離から長距離を走れても良い血統ではあるが、この走りならマイルが限界になりかねないと仁藤は見ていた。
その為には抑えて脚を溜める事が必要なのだが・・・
一旦スタートしたスターライトブルーは言う事を聞かないのだ。

澪は最近、何となく理由は察する事ができるようになってきた。
スターライトブルーは恐らく走るのが好きなのだろう。
いやむしろ走らずにはおれない性格で、更に先頭でいなければ気が済まない性格だと見ていた。
それは競走馬として素晴らしい長所だが、同時に弱点でもあった。
その弱点を克服しないと、クラシックレースの距離を走れないだろうと言うのが仁藤の見解で、それは澪も同じく思っていた事だ。

競馬会の改革によってマイル・短距離路線も重賞やオープンクラスのレースが充実してきてはいるが、この血統である以上意識するのはやはりクラシックなのだ。
だから勝つこと以上にこれまでと違うやり方も覚えていってもらわないと困る。

返し馬。
一度馬場に入るとテンションが上がるスターライトブルーだが、今回は以前に比べると穏やかな方だ、と澪は感じた。
とはいえ、元気がないというわけでもない。

今回は殆ど牝馬と言う特殊なレースも関係してるのかもしれない。
と言うのも、調教でも牡馬相手だとヒートアップしたり威嚇する事もあるスターライトブルー。
それもトップを取りたいと言う気質だから悪くはないのだが、無駄な体力消耗に繋がる欠点でもある。
仁藤厩舎でスターライトブルーに実力的に合わせ馬できるのはシロノライデンとか数頭の牡馬になるが、スターライトブルーが威嚇するものだからそれも出来ないのが悩みの種だったりする。
大きなシロノライデンがスターライトブルーに威嚇されて小さくなるのは見ていて微笑ましい所もあるが、逆にシロノライデンもうちょっと頑張れって言いたくなる澪だった。

そんないつもよりはリラックスしてるスターライトブルーのたてがみを撫でる澪。
私を自分のオンナだと思ってるなら、ちょっとは言う事聞いてくれないかなぁ・・・なんて淡い期待もしてみる。

そしてゲートイン。
いつも通り早く走らせろとばかりに真っ先に入っていく。
ゲートを嫌う馬が多い中で珍しい事で、係員が『いつも楽で助かるよ』と澪に笑いかけるぐらいであった。

そんな中、各馬順調にゲートイン。
バンと開いた瞬間、待ってましたとばかりにスターライトブルーが飛び出す。

抜群のスタートからの瞬間的な加速。
いつも通り一気に先頭に。
スタートだけで１馬身は早いぐらい、ゼロダッシュの鋭さはとんでもない。
これが最大の武器だろう。

そしてグイグイと加速。
思わず澪が叫ぶ。

「言う事っ、聞いてっ、くれないぃぃぃっっっ！！」

やはりと言うか・・・
走るのが楽しすぎて誰の言う事も聞かない。
スターライトブルーはそんな馬なのである。
瞬く間に2番手から４馬身。
秋に色付くターフの上を軽快に爆走していく。

言う事は聞いてくれないが、澪はスターライトブルーの乗り心地が今まで乗った馬の中で一番だと思っている。
しなやかで柔らかい走りと言うか、走りがスムーズで手前の変え方も上手。
一歳年上のシロノライデンより走り方は上手い。
そして何より、鞍上の澪を揺らすリズムが丁度子宮に刺さる・・・
つまり、スターライトブルーとセックスしてるような感覚に澪の股間が濡れていく。

「はあっ、はぁっ、もうっ、しょうがない子っ！」

この状態だとブレーキをかける方が逆効果になりかねない。
こうなったらスターライトブルーの好きに走らせた方がいい。
その方が自分だって気持ちいい。
先生に怒られたら後で謝るから…

乗ってる澪も所謂ヘヴン状態。
以前寛子に言われた「アイドルがしちゃいけない顔」になっているのは承知の上。
自分が先頭を突っ走っているから先輩ジョッキー達にこのみっともない顔が見られないのも幸い。

最後の直線に入ってもリードはキープしており、脚色も衰える気配はまったくない。