PiPi's World 投稿小説

駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

の最初へ
 288
 290
の最後へ

駆ける馬 290

娘たちと交流を育んでいるウラカワミユキの88も、レーシングジィーンの88も、皆が期待をかけてスクスクと成長している。

「クラシックや古馬のGTを狙える馬だぞってよく言われるんですけど、私としては無事に競走馬としてデビューできて、現役生活をまっとうできて、無事に引退を迎えられたらそれでいいと思うんです」
「その通りですね」

「この仔たちと同じ世代にはルドルフの初年度産駒もいるんですけど、新冠の方に凄い仔がいるって話を聞きましてね…」

それはオークス馬トウカイローマンの妹の子。
トウカイナチュラルの88だ。

知性的な瞳をした均整の取れた馬体。
一歳にして牧柵を跳び越える脚力。
そして全てにおいて他の幼駒とは違う存在感。
この年代で期待される馬は多いが、ここまで存在感のある馬は中々いない。
それこそ父のシンボリルドルフがそうだったようにであった。

「内国産種牡馬は不遇な中で・・・あれだけの出来なら希望が見えそうですね」

真奈のそんな言葉。
今の馬産地では外国産種牡馬が隆盛で、内国産種牡馬はどうしても集める牝馬の質が一段劣る傾向にある。
それは涼風ファームでも同じで、よほど相性が良くないと内国産種牡馬を使おうと言う事にはならないぐらいだった。
それだけ内国産の質が外国産に追いついていないと言う事で、シンボリルドルフとは言え超一流の牝馬が回ってくる訳でもない。
そんな中で素晴らしい馬が出てくると内国産種牡馬の市場も活況になる期待があった。

それはシンボリルドルフと同じパーソロン産駒の後継種牡馬であるスターライトブルーの仔への期待にも繋がる。
小さな牧場にとってはルドルフには手が届かなくても同じ血を引くスターライトブルーを交配相手に選んで貰えるからだ。

「まあ、思いも寄らないところから走る馬だって現れるんですから」
「そうですね。頑張りましょう」

そんな涼風ファームでの会話から暫く後。
樹里はアメリカにいた。

アメリカ、ケンタッキー州ルイビル。
人口二十万人程の地方都市が一年で最も活況する日・・・
ケンタッキーダービーデイだ。

1875年竣工のチャーチルダウンズ競馬場は、まさしくケンタッキーダービーの為に作られた競馬場である。
アメリカでは一般的なフラットなトラックコースで、1周は約1マイル。
ゴールまでの直線は400m弱とアメリカでも屈指の長さを誇っている。

チャーチルダウンズ開場年から施行されているケンタッキーダービーは既に百回を超え、数々の激闘が繰り広げられていた。
そして今年もその歴史に相応しい激戦の舞台が整っていた。


本命は金髪の貴公子イージーゴア。
美しき黄金の馬体と強烈な末脚で三冠すらも望めるとの評判で、ここでも一番人気に推されていた。

それに対するは漆黒の暴君サンデーサイレンス。
零細血統の異端児はサンタアニタダービーの鮮烈な勝利でイージーゴアの対抗として推されるまでになっていた。

以降もイージーゴアと同じ厩舎の強豪オウインスパイアリングなど、そこそこのメンバーが集まったなかなかレベルの高い一戦として注目されていた。

欧州の競馬が紳士淑女たちの嗜みなら、米国の競馬はその正反対ともいえるお祭りムードである。
樹里にとっては初めて生で立ち会う米国の大レースだ。

とはいえ人が多少舞い上がっていても馬は我関せず。
サンデーサイレンスの雰囲気もいつもと一緒だった。

SNSでこの小説を紹介

スポーツの他のリレー小説

こちらから小説を探す