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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 288

かかって上がっていったミヤマポピー。
イナリワンの横を通り過ぎた時、ピクリと耳が反応したものの悠がまだだよと我慢させる。
馬群の中に入れていたから我慢はギリギリできたが、外側であればヒートアップしていたかもしれない。

だが、悠のイナリワンの印象はすこぶる良くなっている。
彼が惚れ抜いたスーパークリークとここで走れなかったのは残念だったが、この馬も遜色は無い。
ここまで全く息を乱さない無尽蔵のスタミナと内面から溢れて止まらない闘志。
馬房では壁に畳を立てかけておかないと暴れて怪我をする程激しい気性はマイナスでもあるが、それを上手くレースに向かわせると凄まじい力を発揮する。
秀才タイプのクリークと比べると野生児そのもののイナリワン。
だが、それこそがイナリワン最大の魅力だった。

その暴れかねないイナリワンに折り合いをつけながら最後のコーナー、淀の坂の手前に至る。
イナリワンに息の乱れは無いが、先行するリトルウイングも万全なのは悠にも見えていた。
やはり彼の惚れた女は上手く乗っている事に頬が緩んでしまう。

レース後半に差し掛かっていくにつれて先団の入れ替わりが激しくなるが、リトルウイングもその先団直後でしっかり折り合い脚を溜めている。
こちらは気性も大人で手のかからない優等生で、澪も乗っていて安心感を得ていた。

いよいよ最後の直線に差し掛かる。
内からランニングフリーが抜けて先頭に立ち、じわりとミスターシクレノンがそれに並んでいく。
外から上がったミヤマポピーが若干苦しくなる。
リトルウイングはランニングフリーの後方内めを追走し、イナリワンは最後方から追い上げるマウントニゾンと並んでポジションを上げる。

リトルウイングとしては完璧な位置取り。
前めの位置で馬体を併せて追える状況は勝ちパターンと言っていい。

思えば、厩舎に来た頃は好奇心が強く臆病で、常にキョロキョロしていた馬だった。
スピード能力はノーザンテースト産駒らしく素晴らしいものはあったが、レースでの闘争心が余り感じられないタイプだった。
スピードはあっても瞬発力は余り無いタイプであるが、我慢強さに関しては澪が今まで乗ってきた馬の中でダントツである。
そんなリトルウイングと澪がコンビを組みながら1つずつステップアップしていき、中々ビッグレースに勝てずにいた所もあったが、ここまで大成するまでになった訳だ。

本来は中距離馬であるリトルウイングだが、成長するにつれスタミナが増し、生来の我慢強さで長距離すらこなすまでになっている。
春の天皇賞の長さでも十分にスタミナは持つ。
故に満を持して澪はリトルウイングにゴーサインを出したのだ。

ランニングフリーと競り合いながらジリジリと前に出るリトルウイング。
一気に突き放す脚は無いが、競り合いなら負けない。

馬場の内ラチ沿いをやや開けて追い比べを演じる2頭。
リトルウイングは余力十分なところ、先に動いたランニングフリーの方が手ごたえ怪しく菅山の手綱が激しく動く。

しかしこれを退けただけでは終わらない。
ランニングフリーの外にいたミスターシクレノンが今度はリトルウイングに挑んでくる。
イナリワンと同じミルジョージ産駒でスタミナは十分といったところ。
金杯と京都記念で2着と善戦した後、前走の金鯱賞では大敗して人気を大きく下げていた。

迫られてもリトルウイングはグイッと伸びてハナを奪わせない。
残りは100mを切る。
余力は十分、完全に勝ちパターンだ。

だが、大外を猛然と駆け上がる一頭の馬。
凄まじい脚で差を詰め、残り10mで並ぶ間も無く交わしてゴールに駆け込む。
余りの豪脚にスタンドが揺れた。
澪も呆然とするが、抜き去っていったのは悠とイナリワンだったのだ。

悠は鞍上で震えていた。
仕掛けた瞬間、いつまで待たせるのだと怒りをぶつけるように暴力的に加速。
3000m程走ってきたとは思えない程の凄まじい駆け上がりで並ぶ間も無く全てを抜き去っていった。
凄まじいばかりの豪脚・・・
これは、悠が思っていた以上に強い。
それこそクリークやあのオグリキャップに匹敵するポテンシャルだ。
クリークが休みだった事に少し感謝してしまう。

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