駆ける馬 282
レース間隔が開いたのもあって、馬体重は10kg以上の増量。
故にこの2着はむしろ良い調整と言えた。
澪としては、もっと早く仕掛けていればレインボーアンバーに届いたかと聞かれると、そうは思わないと言うのが本音だ。
スタートは余り得意ではないし、馬群に入れると落ち着かないタイプだけに、後方をゆったり走らせてやる方が向いていると見ていた。
ポテンシャルは一級品だと思っているが、乗り方とすればシロノライデンに近く、やや不器用さを感じる所がある。
ただ、あの時のシンボリルドルフのような圧倒的なライバルがいないとあって、気持ちは楽ではあった。
そして、澪は3月末にリトルウイングと共にドバイへ旅立つ。
いつも通り灼熱のドバイ。
先に到着していたリトルウイングとプラニフォリアは疲れも無く順調。
どちらも暑さに弱くないタイプだからこそ、この遠征を選んだのもある。
そのプラニフォリアが出走するドバイターフ。
アメリカのG1を3勝したナスルエルアラブとイタリア大賞典勝ちのイブンベイが本命候補。
昨年香港で勝っていることで自信を深めている陣営だが、メンバーレベルはその香港よりもさらに上がっている。
それでも的家はプラニフォリアの力を信じている。
自分がしっかり導いてやればプラニフォリアはどんなレースになっても勝てると思っているからだ。
レースはイブンベイが果敢に先行して進む。
プラニフォリアはいつも通り中団で自分のリズムで運んでいく。
イブンベイの作るペースは随分早い。
ヨーロッパだとこのペースになる事は珍しく、こんなペースで引っ張る馬がいるとすれば殆どがラビットだ。
だが、イブンベイはこのペースで堅実な成績を残してきているし、G1もイタリアではあるが制している。
決して弱い馬では無く、単独で逃してしまうと怖さがあった。
そのイブンベイは5馬身程話して快走する。
中盤に入ってもプラニフォリアは中団やや後ろ。
人気薄もあって他のジョッキーから意識されている感は無い。
そのプラニフォリアの前にはナスルエルアラブ。
芝を得意とするがダートもこなせる万能馬で、主要なG1こそ取れてはいないものの、堅実に勝ってきている。
殆どのジョッキーの意識はこのナスルエルアラブの動向とイブンベイとの距離感だろう。
的家も事前の情報からそこに意識はある。
ただ、自分のレースをする事がまず重要・・・
折り合いだけを意識して3コーナーへと入っていった。
直線の長いコースだが、フラットで坂はない。
プラニフォリア自身はスピードもパワーも兼ね備えた馬で、坂はあってもなくても大丈夫だが、この感じだと前もなかなか止まらないだろうと的家は判断した。
しかしこの馬のリズムは崩してはいけない。
故に悩みどころなのだ。
4コーナーに差し掛かると逃げるイブンベイに地元の馬数頭が仕掛けて差を詰めにかかる。
プラニフォリアのすぐ手前にいるナスルエルアラブもじわりと動き始める。
そのナスルエルアラブに追走するべく少し追った的家だったが、思った以上にプラニフォリアの手応えが良い事に気付く。
これなら海外の強豪とも勝負できるだろうと、外に出しながら最終コーナーを回った。
直線に入り、前から7番手程。
逃げるイブンベイから十馬身はある。
やはりこのメンバーの中ではナスルエルアラブが最も伸び脚が良い。
グングンとイブンベイに迫っていく。
その後ろからプラニフォリア。
的家の檄に反応したプラニフォリアはナスルエルアラブ以上の脚で追い込んでくる。
直線半ばでナスルエルアラブは猛然と追い込み2番手へ。
粘るイブンベイとは5馬身差を切る。
その後ろに迫るプラニフォリア。
残り200mを切りナスルエルアラブと並んだ。
そしてイブンベイとは3馬身の差。
流石に逃げるイブンベイに勢いは無い。