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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 271

タマモクロスにとっては絶妙と言うべきタイミング。
後方で楽に走れていたからの事で、いつもの白い稲妻のような末脚で直線に入ると次々と交わしていく。
それに追随するのは、ノーマーク外国馬。
ペイザバトラーだった。

ペイザバトラーはアメリカでは一介の二流馬に過ぎなかった。
だが、管理する調教師はアメリカでトップクラスのボビー・フランケン。
騎乗するのはトップジョッキーの1人、クリフト・マッケンジー。
このアメリカ最高峰コンビがこの二流馬に日本の馬場適正を見出し、徹底的に研究してここに送り出したのだ。
勿論、日本最強馬であるタマモクロスの事も研究していた。

外側を捲るタマモクロスに対し、内側で馬体を併せないように抜け出すペイザバトラー。
併せると驚異的な粘りを見せるタマモクロスだから、併せずに瞬発力勝負だけに徹せれば勝てると踏んでいた。

南も先に抜け出すペイザバトラーに馬体を併せようと内に切り込むが、マッケンジーは更に内側に寄せてそうはさせまいとする。

「馬体を併せてしまったらあの馬は強い」

ペイザバトラー陣営はタマモクロスの強みを研究しており、この芦毛の怪物になんとしても勝つためにシミュレーションも欠かさなかった。

マッケンジーが鞭を振るいペイザバトラーを粘り込ませる。
タマモクロスはそれに必死に食らいつく。
ただ寄せられないことでいつもの力強さは発揮できない。

オグリキャップはこの2頭から離れた3番手争いにいた。

オグリキャップの最大の弱点と言える加速するまでのもたつき・・・
もたつきの原因は、爆発的な加速をもたらす大きな跳びが馬群の中では発揮できないからだ。
それでも、もたつきながらも馬群を捌き、トップスピードに乗れば爆発的な加速で他馬をぶち抜いていく。
だが、余りにも遅すぎた。

タマモクロスの猛追を内側で凌ぎ切ったペイザバトラーが1着でゴール。
オグリキャップはタマモクロスに肉薄したものの3着で終わったのだった。

してやられた表情の南。
世界の名手、マッケンジーの技術と戦術にやられた感が強かった。
そして澪の方は、相当悔いの残る結果だった。
全くもって戦術ミスと言っていいかもしれない。

こうして天皇賞のリベンジに挑んだオグリキャップだったが、タマモクロスと共に伏兵にやられると言う結果に終わった。
そして、2頭の対決は最後の舞台・・・
有馬記念での再戦に向かうのだった。



その頃、樹里はアイルランドの地にいた。
向かった先はスノーベリー牧場だった。

「よく来てくれたわね!」
「お久しぶり・・・本当にいいの?」

樹里を迎えるアネットにそう返す。

彼女にとってはこれ程美味しい話は無いが、スノーベリー牧場にとっては何のメリットも無いように見える話だ。

「まあ、うちの牧場では多い系統だし・・・何よりナホにお願いされたからね」

アネットの隣で奈帆がお久しぶりですと頭を下げる。
まだ留学を続ける奈帆は学業に励みながら牧場でも働いているが、アネットが相当気に入っているのは話にも聞いていた。
その縁も多少はあるのだろうが、樹里にとっては破格の申し出だった。


そのまま案内された馬房の一つ。
そこに居る馬を見て相変わらず圧倒される。
『鉄の女』トリプティク。
世界各地を飛び回り、数々のG1を制した女傑がそこに居た。
成績だけでなく血統も超一流。
祖母は数々の名馬を送り出したマルガレーテン、母は競走馬としても成功したトリリオン。
母の父はアメリカでリーディングサイアーにもなったヘイルトゥリーズン。
父はフランスのリーディングサイアー、リヴァーマン。

「お高いけど貴女なら出せるでしょ?」
「ええ、勿論だけど・・・」

笑いながら言うアネット。

「代わりに奈帆ちゃんを頂戴は無しよ」
「まさか!そんな事したらユーシに怒られるわ!」

祐志の名前が出ると言う事は、奈帆を通して祐志の働きかけもあったのだろう。
人間性は最低なのだが、こう言う所もあって嫌いになれないのが頭にくる。

「本当にありがとう・・・感謝するばかりだわ」
「弟達ならきっと良い馬を作るだろうから、トリプティクの子でこっちに遠征してね」

そうなれば素晴らしい事だろう。
いずれそうなれば良いと誓い、樹里は日本に戻ったのだった。


日本に戻り涼風ファームに向かう。
トリプティクは年明け頃に移動できそうで、エリックと迎える準備を打ち合わせた。
そして気になっていたサクラスターオーを見に行く。

小柄な馬が更に痩せて見る影も無かった夏頃に比べると、少し馬体が戻ってきた感がある。
脚元はほぼ回復したが、体調は回復するまでに至っていない。

「生命の危機は脱したが・・・ただそれだけだな」

エリックが言うには競走馬としての復帰もあり得ないだけでなく、種牡馬としても無理・・・

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