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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 263

その中でクリークは内側で囲まれたまま。
抜け出す場所は無い。
それでも悠は笑っていた。
淀の坂を下り、直線の入り口。
各馬がばらけ広がった所でクリークが仕掛けた。

出口は無い筈である。
だが、クリークは悠のゴーサインに応えて内側をスルリと抜け出してきた。
無い筈の内側・・・
最内を通っていた筈のクリークが更に内側を通って抜け出す。
それは京都競馬場の特徴を利用した抜け出しだったのだ。

京都競馬場は3コーナーから4コーナーにかけて、内側のコースと外側のコースがある。
3000mの菊花賞は外側のコースが使われるのだが、内側コースの出口付近は柵が無い。
この柵の無い出口を通って悠は馬群を抜け出した訳だ。

勿論、その区間は僅かな距離だ。
加速力が無ければ前は柵で壁になる。
クリークの脚ならいけると確信が無ければ事故になりかねない危険な行為だった。
それ故にやる騎手なんていなかった作戦だが、先週の秋華賞で様子を見ていけると確信したからこそのチャレンジだったのだ。

秋華賞ではミヤマポピーの末脚に屈した形にはなったものの、負けて強しというレースとなった。
今回はそのミヤマポピーのような末脚自慢の馬は見当たらないし、そんな展開にはならないという確信めいたものが悠にはあった。

最内のクリークが抜け出したことで後続は一気にペースアップする。
先に外から仕掛けた最低人気のアルファレックスが食らいついて行こうと追いかけてくる。
しかしクリークは負けない。
直線では堂々、さらにリードを作ろうと悠はひとつ気合を入れる。

内側の良い所を常に通っていたクリークの余力は十分。
グイグイと後続を突き放していく。
まさに圧勝・・・
強さだけを見せつけたスーパークリークが菊花賞を勝ってみせたのだ。

このスーパークリークの圧勝劇は、オグリキャップやタマモクロスへの挑戦権を得たと言っても過言ではない。
そして、その舞台は年末の有馬記念となるだろう。


仁藤としてもクリークの勝利は格別だった。
日本の競馬がスピード重視になっていく中、長距離戦の比重は年々落ちていってる。
だが、古いタイプと自らも思う仁藤にとって、長距離戦は今だに花形であるし、調教師の腕の見せ所だと思っている。
そんな仁藤にとって、クリークは恐らく本格的なステイヤーとしては最後の大物を手掛けたと言う感覚が強い。
そして菊花賞で本格的なステイヤーとして証明できた事が格別な喜びだったのだ。

ただ、本格的なステイヤーであるクリークだが、その才能はそれだけに収まらないスケールの大きさがある。
スピードの絶対値もトップレベルだ。

悠は騎手デビュー2年目での牡馬クラシック制覇。
戦前からクリークでの挑戦にこだわってきたからこそ、この勝利は格別だった。
クリークなら絶対に勝てる、と思っていたから余計に嬉しかった。

そしてクリークの勝利を喜んで見届けたもう1人の「関係者」がいた。
クリークの配合を考案した岡山だ。
菊花賞の直前で回避した1頭、マイネルフリッセは彼が代表を務めるクラブの馬だった。

クラブの会員を説得して『本当に強い馬が出るべき』と道を開いてくらたからこそのクリークの菊花賞勝利があったと言えた。
ただ、マイネルフリッセを管理する中町調教師は激怒したのだが、岡山にとってはクリークの勝利はそれだけ価値があったのだ。

岡山が考え抜いた配合理論で生まれたスーパークリークだったが、曲がった脚で生まれた為に買い手がつかなかった。
値段を大幅に下げても売れず、小さな牧場にとっては負担にすらなっていた。
そんな状況であったが為に、一時期は岡山が引き取る気でいたが、牧場巡りをしていたエリックの目に留まり樹里が買う事になった。
その時に樹里はエリックの勧めで提示額より遥かに高い金で買っており、牧場にとってはそれが大きな助けになっていたのだ。
そんな事もあって、岡山は感謝の意味を込めての出走辞退でもあった。


そして、多くの関係者が喜ぶ勝利の中、最も喜んでいるのは悠であった。
悠にとって、若くしてG1に勝った以上の意味がこれにはあった。

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