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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 262

次の週は菊花賞。
スーパークリークは最後の望みをかけて出走登録はしたが、週明けの段階で獲得賞金順による出走資格は19番目。
奇しくも前走で不利を食らった相手、ガクエンツービートと同じ順番で回避馬を待つという状況になった。

悠にはほかにも3頭騎乗できる馬がいたが、あくまでクリークに騎乗しての参戦を望んでいて、その3頭の陣営には断りを入れていた。

樹里も悠に『他の馬を優先してくれていい』と言ったのだが、悠の方は『その代わり、今度ダービー勝てる馬に乗せて下さい』と笑顔で返された。
それだけこの馬に賭ける思いが強いのだ。

そんな想いが通じたのか・・・
直前にマイネルフリッセが回避を発表したのだ。

「複雑な心境やな」

この一報に厩舎スタッフや悠が沸く中、仁藤は苦笑いを見せる。
このマイネルフリッセの回避は、オーナーサイドから『勝てる馬がレースに出るべき』と言う強い意志でスーパークリークに譲ってくれた訳だ。
だが、同時にマイネルフリッセを管理する中町調教師は納得しておらず激怒したと言う話も仁藤は聞いていた。
自分の馬が出走できる嬉しさもあるが、同じ調教師として中町調教師の気持ちは痛い程分かる。
それだけに素直に喜べないし、尚更負ける訳にはいかない。
だからこそ悠にこう言う。

「菊は・・・全力で追ってええ」

今までクリークの体調や脚元を考慮して言ってこなかった言葉。
本気を出せばあのオグリキャップに負けない能力を解放しろと初めて言ったのだ。

状態が万全だからこその言葉だった。

後にセンシュオーカンも回避してガクエンツービートも出走枠に滑り込む。
スーパークリークは高い潜在能力を評価されて3番人気の支持を集めた。

長丁場のクラシック最終戦。
レースはカツトクシンがハナを切り、メイショクボーイ、ミリオンハイラインと続く。
1番人気のヤエノムテキが好位5、6番手、その後ろのグループにクリークと2番人気のディクターランドが構える。

クリークにとっては好位よりやや後ろ。
更に内側に押し込められて逃げ場が無い。
警戒されてこうなったと言うより、悠が自らここに入り込んだのだ。

スタートから最初の4コーナーを回った所で内側で囲まれた悠が薄く笑う。
先週の秋華賞のオータムリーヴスでもインで周り、一つ試せるか確認した事があった。
それがどうやら試せそうだと改めて確認したのだ。

そんな悠とクリークは中団内側で脚を温存。
スタミナ自慢のクリークとは言え、3000mは未知の領域。
その為に内側にあえて入り、スタンド前辺りでは仮柵が取り払われた内側5mの所謂じゅうたんコースに入り込んでいる。
この場所は大レース用にだけ解放され、開催後半で荒れてきた馬場と違って抜群のコンディションの場所。
当然他の馬も入りたい場所なのだが、囲まれるリスクも付き纏う。
そのリスクを犯してまで悠が内側に拘ったのは、クリークにラストスパートで本気を出させる為だった。

リスクを承知の上でクリークに本気を引き出させる。
仁藤のゴーサインを聞いた時から思い描いてきた競馬が今まさにできている。

勝負どころの淀の坂に差し掛かる。
先頭を行くカツトクシンはスローの逃げで余裕を残す。
2番手メイショクボーイは変わらず、その外にアルファレックスが仕掛け気味に並んで行く。

その後ろのグループにヤエノムテキがいるが、手ごたえがいまひとつで後退気味。
悠はその様子を見ながら不敵に微笑む。

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