駆ける馬 257
リトルウイングはオールカマーから秋の天皇賞に向かう。
そんな中、ガステリアが札幌2歳ステークスで初重賞に挑んだ。
豪快な差し切りで新馬戦を勝った勢いそのままに1番人気。
レースも小回りのローカル競馬場をものともしない後方からの追い込みで勝って見せたのだ。
ただレース後は、歩様がおかしかった為に検査・・・
大きな怪我は無かったものの、大型馬だから脚への負担が大きかったようだ。
グリーングラスも常に足元の不安と戦いながら現役を続けており、産駒の中でも大型馬は足元に不安を抱えるタイプが多い。
それもあって奥原は無理をさせない方針で、一旦牧場で静養させつつクラシックまで慎重にレースを選んでいくようにしたのだ。
その同じ週のアメリカでは、ノースウィンドがアローワンスでまさかの出遅れ。
だが、猛然と追い込んで2着まで持ってくる。
高い能力を負けても見せつけたが、クリスは次走もアローワンスで戦わす予定とした。
そして、サンデーサイレンスのデビュー戦は、気の悪さを見せてまともに走らず・・・
それでも2着なのは流石と言うべきなのだろう。
ノースウィンドもサンデーサイレンスもまだまだ課題が多いわね、とクリスは嘆息するもののその表情は明るくて馬自体の力はかなりのものがあると思わせるのだった。
9月。
国内ではトライアル・前哨戦で樹里の所有馬が始動。
紫苑ステークスのプラニフォリアはフリートークとヤグラステラの追撃をものともせずに完勝。
セントウルステークスのウィンドサッシュはサンキンハヤテとの競り合いに僅かに敗れる。それでも奥原は前向きに捉えていた。
ローズステークスのオータムリーヴスは3着。舘曰く本調子ではなかったと言う。勝ったのは澪鞍上のシヨノロマン。
そしてオールカマーはリトルウイングがコースレコードのおまけ付きの圧巻の勝利。1年以上の休み明けだった古豪スズパレードが2着。
スタミナや瞬発力はタマモクロスに劣るとは言え、スピードに関しては負けているとは思わない。
それをオールカマーで見せつけた形だ。
これで堂々と天皇賞に向かえる。
だが、一点だけ悩み所があった。
リトルウイング主戦の澪はオグリキャップの主戦でもあるからだ。
澪にとっては本当に悩ましい話だ。
しかもリトルウイングは仁藤厩舎の馬。
勿論優先したいのだが、わざわざ声をかけてくれた瀬戸内調教師に対する義理もある。
トップジョッキー達は常にこう言う有力馬の取捨選択をしていかなくてはならない。
つまり彼女もそんなトップジョッキーの仲間入りをしたと言う事なのだ。
恐らく、どちらかを選んだら、選ばなかった方は澪の手から離れる。
それが身悶えするぐらい悩ましいのだ。
悩みに悩んで、澪が出した答えは・・・
「オグリキャップに乗ろうと思います」
「普通はそうやわな・・・そうじゃなきゃアカン」
仁藤調教師に伝えた所、そんな答え。
そう言われるのが分かっていたから余計に心苦しいのだ。
「乗る限りは迷ったらアカン」
「はいっ!」
決めた以上、迷ってはいけない。
どうにかして倒したい・・・
万全のオグリキャップでも難しい相手だけに、何とかこのコンビでタマモクロスに勝ちたい気持ちが強かったのだ。
その同じ週の関西。
スーパークリークが神戸新聞杯で菊花賞の出走権を賭けて出走したものの・・・
勝負所の直線で内側のクリーク
前が壁となって抜け出せないだけでなく、横のガクエンツービート騎乗の坂江が振るう左ステッキが何発もクリークの顔に当たる。
これで完全に怯んでしまったクリークは6着・・・
出走権を取り逃す羽目になったのだ。
仁藤と悠、温厚な2人がレース後に大荒れ。
この2人のクリークに対する期待度が高いからこそ、こんな不利で出走権を逃した事が許せなかったのだ。
それもあって、次の日に関西に帰ってオグリキャップを選んだ事を告げるのが怖かった澪だが、その頃には仁藤も落ち着きを取り戻していた。
今の所、出走回避馬がいれば繰り上がりになると言う状況。
仁藤は『もう神頼みや』と半分諦め、悠は『クリーク以外で菊に乗らない』と最後まで待つ気でいた。
菊花賞の登録馬が正式に出るまで数週間、その間に秋のG I戦線が幕を開ける。
まずはウィンドサッシュが出走するスプリンターズステークス。
前哨戦のセントウルステークスは2着だったものの内容は悪くなく、差も僅かだったことから奥原は前向き。
「むしろ上積みの方が大きいよ」
と状態に自信を見せる。