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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 250

私の馬とも戦っていたのよと笑うクリス。
彼女の管理馬にはファーディナンドがおり、ドバイなどで戦ったのを思い出して樹里も驚く。

そんな話で盛り上がっていると、厩舎から凄まじい咆哮が聴こえてきた。
それは熊かと思い身構える樹里。
その樹里にクリスは苦笑する。

「あれね・・・彼がご機嫌斜めみたいだわ」
「彼?・・・」
「紹介するわ・・・うちの若き暴君よ」

クリスが樹里を馬房に誘う。
左右の馬房が開けられた馬房に居たのは、漆黒の馬体の馬だった。


樹里の最初の印象は怒りだった。
その馬は何かに怒っていた。
ここまで怒りの感情を露わにする馬は見た事が無かった。
首を上下に大きく振り、脚を踏み鳴らして怒っている様は、まさにクリスが言う所の暴君そのものだった。

その漆黒の馬が樹里を睨む。
まさに睨むと言う表現が合うような、血走った白目が見せて樹里を見ていた。
そして咆哮・・・
馬の嘶きとは全く思えない肉食獣のような咆哮。
先程、熊かと思った声はこれだったのだ。

「サンディ、そんなに怒らないの」

クリスは苦笑しながら近付き、漆黒の馬の鼻面を手でコツンとすると、ガブリとクリスの肩口に噛みつく。
樹里はビックリするが、クリスは慣れているのか首輪を撫でている。
そうしているとウゥッーと唸りながらも大人しくなる。

「困った子でね、ちょっとした事で直ぐに機嫌を悪くするのよ」

そう言うクリスだが樹里は驚くしかない。
だが、どこかエリック達と似た雰囲気があるような気がしていた。

「綺麗な馬ですよね」
「ええ・・・才能も素晴らしいんだけど、売れ残って義理で引き取った子なのよね」

厄介そうな気性だが、その漆黒の馬体の美しさに引き込まれてしまいそうだった。
馬体の美しさだけでなく、圧倒的な雰囲気に息を呑まれたのだ。

「アメリカだとこんな馬が売れ残るの・・・」
「まあ、零細血統かつ曲がった脚と捩じくれた気性もつけば、何処でも売れないわよ」

クリスが笑う通り問題ばかりの馬ならどこでも売れる事は無い。
ただ樹里はこの馬に惹かれてしまっていた。

「・・・私が買う事は可能かしら?」

自分でもビックリするぐらい、そんな言葉が口から出てしまった。
クリスは若干ビックリするものの、すぐに大きく笑う。

「面白い人ね!半分でよければ権利を売れるわ」

クリスはそう言うが漆黒の馬の方は樹里をギロリと睨む。
それは『お前如きに俺の面倒を見れるのか?』とでも言いたげに見えた。

「サンデーサイレンスよ・・・それが革命を起こす子の名前よ」
「静寂の日曜日・・・ね」

キリスト教徒達が敬虔に祈りを捧げる日曜日には似つかしくない名前の悪魔のような漆黒の馬。
この馬に出会えたのが、アメリカに来た最大の収穫のような気がしていたのだ。


その後、厩舎の色々な紹介やら契約やら、馬の受け入れの準備やらをする事になった。
ウイッチ厩舎は所謂家族経営な所もあり、四人姉妹の彼女の妹の一人が調教助手、二人が主戦騎手を勤めている。
そして樹里のダンサーズイメージ産駒はノースウィンドと言う名で競走馬登録をする事になる。
彼女の好きな歌手のアルバム名と母のキタヨシコと牧場名から名付けた名で、この名前でアメリカで走る事となる。

「ダンサーズイメージね、今は日本で種牡馬しているのよね」
「ええ、彼(エリック)が配合から種付けまで全部考えているんだけど、あの馬は素晴らしいぞって」

ダンサーズイメージ自身も非常にポテンシャルの高かった馬だが、ケンタッキーダービー、プリークネスステークスともに降着処分を課されるという不運に翻弄された競走馬生活を送ってきたのだ。
引退後もアメリカからフランスに渡り、さらに現在は日本で種牡馬として繋養されている。

その産駒であるノースウィンドは涼風ファームからウイッチ厩舎に移動すると、すぐにクリスの妹であるクレアが跨り軽い調教を始めた。

競馬後進国から来た馬に最初は懐疑的だったクレアだが、乗ってみると抜群のスピードに驚く。

「ビックリしたわ・・・これは重賞クラスじゃないかしら」
「そうね、能力より何より・・・」

クリスとクレアはノースウィンドの能力に驚きつつも、最も気に入った所はそこではない。
ノースウィンドは人懐っこく素直で従順。
非常に賢くて物覚えも良い。
芦毛の若い馬に珍しく真っ白な馬体と相まって愛嬌があるように見える。

「本当にあの悪魔と対照的に天使よね」
「純白の天使と漆黒の悪魔・・・何だか良いフレーズね」

クリスとクレアがそう言う2頭の馬は、それぞれが2人の妹達が主戦騎手となり秋のデビューに向けて調整される事になるのだった。


時間は少し戻って春シーズンのグランプリ。
宝塚記念である。
一番人気は安田記念を制したマイルの帝王ことニッポーテイオー。
2番人気は白い稲妻タマモクロスとなった。

これは中距離実績があり先行力とスピードに優れるニッポーテイオーが距離がやや短いと見られているタマモクロスより有利と言う評価からだった。

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