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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 249

迫られたのが若干不満だったが、これは追い上げてきたウィンドサッシュを褒めるしか無い。
だがそれ以上に若き横平を褒めるべきだろう。
ダイナアクトレスと共に動いていれば、ニッポーテイオーが完封できたレースだった。
あそこで仕掛けを我慢できたのは横平の成長なのだろう。

「厄介な事だ」

誰と無くそう言う郷家の口は少し緩んでいたのだった。


スタンドの馬主席。
出走馬が居ないのに観戦していた祐志が満面の笑みだった。
樹里の馬が健闘したからでは無い。

「NHKマイルより今日のタイムの方が遅い」

彼の言葉で魂胆を理解する樹里。
少し呆れたような目で祐志を見る。
恐らくスポーツ新聞辺りを使って煽るんだろう。
ニッポーテイオーにオグリキャップはタイムで勝っていると。

「でも宝塚記念は出ないんでしょ?」
「ああ少し疲労が見えると言う話だからな」

ならば煽らなくてもいいだろうに、樹里から見ると必要以上に感じていた。
だが、この煽りが中央競馬を動かして制度改正もあり得るかもしれないまでになってきているのも事実だ。

制度が変わる事で色々な馬に可能性が広がる・・・
それは決して悪い事ではない。
だが、煽って人気が上がり過ぎる事でオグリキャップに悪い影響が出るのではと、樹里は人事ながら心配するのだった。


一方、涼風ファームでも一つの問題が生じていた。
今年2歳となるキタヨシコの86。
この牡馬はダンサーズイメージの産駒である。

キタヨシコは樹里がオーナーになってから導入した牝馬で、星旗に連なる由緒ある日本の牝系。
血統と馬体のバランスからネイティブダンサーの子であるダンサーズイメージと配合して生まれた芦毛の牡馬は、エリックが理想とする素晴らしいバランスの馬体となった。
いつデビューしても良い仕上がりであるが、この馬はまだ厩舎もおろか登録すらしていない。

「芝では走りそうにない」
「ガーベラよりも?」
「ガーベラよりもだ」

完全なるダート馬で、放牧中に馬体の割にスピードが出ない事に不思議に思い色々調べてみると、そう言う答えに行き着いた訳だ。
やはり、ダートコースを走らせてみると、2歳とは思えないスピードだった。

「ガーベラも芝は苦手だったけど何とかなったわ」
「その通りだが、日本ではダートの地位が低いのがある」

エリックは思い切って地方で走らせる事も考えているようだった。
恐らく樹里なら馬主資格は余裕で取れる。
だが、地方で無敵になっても評価には繋がらないし、中央で遠征させてもガーベラですらラモーヌより遥かに低い評価になっている。

「試しだが・・・アメリカで走らせてみないか?」
「アメリカ?!」

樹里は驚くが突拍子の無い話では無い。
エリックはここまでダート専用馬なら、ダートの本場アメリカで走らせてみるのも良いと考えたのだ。

「アメリカには伝手が無いわ・・・」
「姉貴がトリクティプのアメリカ遠征で世話になった厩舎があるらしい・・・そこらから当たってみるのはどうか?」

エリックの提案に樹里は考え込む。
確かに面白い試みではあった。

こうして宝塚記念を前に急遽アメリカに飛んだ樹里。
向かったのは西海岸、サンタアニタ近郊であった。

スノーベリー牧場のアネットから紹介された調教師はこの地区を中心に活動していると言う。
何度もアメリカに来ている樹里も、いつもながら広大なアメリカに驚かされながらもその厩舎に向かったのだ。

その厩舎、ウイッチ厩舎はアメリカ競馬界の名門とも言われるウイッチ家が代々経営していると言う。
そんな名門が競馬後進国の日本人の馬を預かってくれるのか・・・
不安しかないが、アネットによるとウイッチ家とは薄いながらも血縁関係があり、今も交流している関係らしい。
それで話ができたと言うが、流石の樹里も不安の方が大きい。

そしてウイッチ厩舎に到着。
出迎えて来たのは樹里と同年代ぐらいの女性だった。

「ようこそウイッチ厩舎へ・・・私が調教師のクリスよ」
「よろしくお願いします」

思っていたより随分若い。
だが彼女が名門ウイッチ厩舎を背負い『サンタアニタの魔女』と呼ばれているのだから腕に間違いは無いのだろう。

「白幡樹里といいます。亡くなった父から数年前に馬主業を引き継いで…」
「あら…私も似たようなものだわ」

奇しくもクリスが名門厩舎を継いだのが樹里が馬主を始めたのとまったく同じ4年前のことだった。

「父の代からいたスタッフのおかげで開業からいい成績を残せてはいたけど、それだけではこの先維持できるかはわからない……そこでアネットからいろいろ話を聞いたわ。貴女の馬がアメリカの歴戦の猛者を破ってきたこともね」

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