PiPi's World 投稿小説

駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

の最初へ
 242
 244
の最後へ

駆ける馬 244

ただ、生かしておくのは人間のエゴな訳だ。
可哀想と言う感情がエゴであるのは、生産者である真奈も理解はしている。

「サクの治療記録は今後の獣医師界の何らかの貢献になると思いたいな」
「そうなるといいわね」

エリックは馬主や関係者の思いとは別にそう言う意味でも治療を受けたと言う側面もある。
この件を活かして少しでも調教や治療が発展すれば、馬の苦しみも減るだろうと思っているのだ。
『それもエゴなのだがな・・・』と苦笑しながら、エリックは真奈をその場に残して仕事に戻ったのだ。


5月に入り、古馬最高峰のレースの一つである天皇賞が開催される。
人気は大阪杯で無冠の帝王を返上したリトルウイング。
そして牝馬ながらG1で健闘中のプチソレイユがそれに続く。
だが、話題の中心は3番人気の馬・・・
G1未勝利ながら重賞を連勝してここに来たタマモクロスであった。

父シービークロス同様に『白い稲妻』が定着してきたタマモクロス。
小柄ながら荒ぶる気性で中々勝ち上がれなかった馬が、去年の秋から本格化してきて連勝中。
G1馬達を抑えて話題の中心となっていた。

「今日もいい具合に仕上がってるね」

芦毛の馬体は他の毛色の馬に比べて見た目で良し悪しの判断がしにくい。
それでもタマモクロスを管理する調教師の小沢には今の彼が抜群の出来にあることがわかっていた。

「いい感じですね。あとは僕が上手く乗って回ってくるだけだ」
「後は任せたよ」
「ええ、若い子にも負けてられないですから」

タマモクロスの主戦騎手、南はそう言って笑顔で馬に跨る。

自信に満ちた顔の南。
そして一番人気のリトルウイングに跨る澪の顔にも自信が見えていた。
距離は間違い無く長い。
だが、今のリトルウイングならこなせると信じていた。

そんな天皇賞のスタートが切られる。
ハナを切ったのはプチソレイユ。
熊崎が絶妙なスタートを切り先頭に立つ。
そこにマヤノオリンピア、メイショウエイカンと続く。
リトルウイングは中団の8番手。
タマモクロスはその数頭後ろに位置していた。

先頭集団のマヤノオリンピアもメイショウエイカンも先頭争いをしようとはしていないので、プチソレイユは単騎逃げを決め込む。
唯一の牝馬であるが、スタミナには自信がある。
熊崎もそのスタミナを信じての逃げであった。

スローペースの中、一周目のスタンド前。
大歓声に南が少し嫌な顔をするが、タマモクロスは落ち着いて折り合いをつけていた。

長距離戦は最後の直線を2度走る。
1周目のホームストレッチで起こるこの歓声に折り合いを欠いてしまう可能性も考慮しないといけないが、それはどの馬にも心配はいらないようだ。

各馬向こう正面へ。
プチソレイユの逃げは1、2馬身ほどになって、その後ろにはメイショウエイカンにレイクブラック。
好位にランニングフリーやメジロデュレンがいて、リトルウイングとタマモクロスはさらにその後ろだ。

リトルウイングは折り合い良く、手応えも十分ある。
菊花賞の時もギリギリのスタミナと言う感じではなかったが、今回はそれ以上に余裕があるように思えた。
これならゴールまでスタミナが尽きる事は無いだろうと澪も感じていた。

そして勝負のコーナーに入っていく。
3コーナーに入ると、先頭のプチソレイユに後ろの馬が距離を詰めていく。
その中でリトルウイングは動かない。
リトルウイングのすぐ後ろでピタリと追走するタマモクロスに澪が言い表せぬ不気味さを澪は感じていた。

そして4コーナ。
前の馬が失速し始める中、プチソレイユにメジロデュレン、ランニングフリーが迫ってくる。
プチソレイユの外側から覆いかぶさるように2頭が並びかけてきたのだ。

SNSでこの小説を紹介

スポーツの他のリレー小説

こちらから小説を探す