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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 243

大きく外を回ってのロス。
内側の馬場もさほど荒れてなく、先行馬の速度もそこまで落ちてはいない。
だが、オータムリーヴスの末脚はそれらを遥かに凌駕していたのだ。

全部まとめて差し切りゴール。
2着に入ったアラホウトクに2馬身差の完勝となったのだ。

勝利したオータムリーヴスは、次の予定をオークスに定めた。
距離の壁と言う難敵はあるが、寛子もこなせるだろうと判断していたのだ。
そして、悠はデビュー2年目でクラシック勝利と言う偉業を成し遂げたのだった。


牡馬一冠目の皐月賞はヤエノムテキが勝利。
前走オグリキャップに完敗して人気を落としたが、ここでは実力を見せつけたのだ。

だが逆に、それがオグリキャップの評価を更に上げる事になった。
何故、これ程の馬がクラシックに出走しないのかと中央競馬に対する批判が集まり始めていた。


そんな中、涼風ファームでは出産を終えた母馬達も落ち着き、次の種付けシーズンを迎えつつあった。
生まれたばかりの子馬も元気そのものである。

そんな子馬達に届けられたのは、大量のリンゴ。
これは近隣の渡瀬牧場からだった。

昨年、妊娠して体調を崩した渡瀬牧場のウラカワミユキを涼風ファームで一時預かりし、エリックの治療で回復させた事があった。
どこの牧場もかまど馬と呼ばれる自己の牝系を大事にしているが、このウラカワミユキも渡瀬牧場の大事なかまど馬で、何とか助けたいと頼ってきた経緯があった。

その後、ウラカワミユキは渡瀬牧場に戻り、牡馬を出産。
母子共に元気だと言い、このリンゴはそのお礼の一つだった。
なお、生まれた牡馬は樹里が買い取る事で話も纏まっていた。

そんな事がありつつも、今年生まれた子馬の中でエリックが期待するのは、セントオーキッドの88と呼ばれる牝馬。
マルゼンスキー産駒のこの牝馬はエリックが近年見た中で最高の馬体バランスを持った馬だった。
ただ、出産時から息が弱く、体質もひ弱なのが気がかりだったが、それを補って余りある素晴らしいポテンシャルを秘めているように感じていたのだ。

エリックは彼女の父であるマルゼンスキーをとにかく高く評価している。

「間違いなくニジンスキーの最高傑作の1頭だろう。日本で走っていなかったらシアトルスルーの最大のライバルになっていたはずだ」

マルゼンスキーは種牡馬としてもホリスキーやサクラチヨノオーを送り出し成功を収めている。

「もし競走馬として厳しかったとしても、繁殖としていい仔を産んでくれる。ただコイツにはその前に、ポテンシャルに賭けてみたい」

セントオーキッドの88はウラカワミユキの産んだ牡馬と隣同士の馬房にいる。
さらにその隣に、同じく樹里が買い取ることになっているレーシングジィーンが産んだ牡馬がいた。

それらも重賞級とエリックが期待する子馬達である。

「今年はラモーヌとガーベラ、そしてソフィアも加わったから、種付けが楽しみであるな」
「そうね、久しぶりにワクワクするわ」

エリックの隣で真奈がそう言う。
ラモーヌもガーベラも涼風ファーム始まって以来の名牝だ。
それだけに真奈の期待も大きい。

「勿論、この繁殖牝馬にも種付けするぞ」
「ええ、次の赤ちゃんが欲しいわ」

エリックが2人の赤ん坊に授乳する真奈の尻を撫でる。
1人は真奈が産んだ息子の慎次だが、もう1人は彼女の弟・・・
幸子が産んだ星次郎だ。
サクラスターオーの世話にかかりきりの幸子の代わりに真奈が子育てしているせいで大忙しなのだが、それでもエリックは真奈を更に孕ます気でいるようだ。
ただ、真奈の方も繁殖牝馬呼ばわりされようが嬉しいのだが。

そのサクラスターオーは脚の状態は落ち着いてきた。
ただ元々脚が弱いだけに注意が必要ではある。
そして脚元の回復が著しいのだが、体調は良いとは言えない。
脚元の負担を減らす為に大幅な減量をしたのがその原因だ。

今や骨と皮だけのようなサクラスターオー。
体重も有馬記念時から100kgも減っている。
競走馬としての復帰はもう無理なのは関係者も了承済みで引退措置が取られていたが、エリックの言う所『生きてるだけで奇跡』な状況であった。

そのスターオーの世話を殆どの時間、幸子がしている。
幸子も五十代、高齢出産かつ馬房で産んだと言う状況。
そのせいか体調も万全ではないが、スターオーから離れはしなかった。
故に子供達の面倒は真奈が見ているが、敦子達も彼女をフォローして何とか回っている状況だった。

『サチコは牧場の理想のオンナだ』
常々エリックがそう言うのを真奈も聞いている。
彼の言う理想の牧場の女は、馬に対する献身性と男に対する淫乱性で、彼の理想は彼自身の母と姉らしい。
その意味では幸子や真奈も彼の理想の存在なのだろう。

「サクはどうなるのかしら」
「生きてるだけで良しとするべきだ・・・恐らくオスとしても死んだも同然だからな」

過酷な減量と相次ぐ体調不良で生殖機能が喪失している可能性は高い。
つまり、経済動物としては生かしておく価値は無い。

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