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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 24

澪がノルマをクリアできたことで、樹里も悩むことなくシロノライデンを菊花賞に送り込むことができた。
トライアルの激戦も何のその、疲れもなく戦前の調教も順調にこなした。
前哨戦で好走したとはいえ、人気はあまり上がらないし人馬とも気楽な気持ちで行ってほしい、それが樹里や真奈、それに仁藤調教師の思いでもあった。


秋のGTシーズンが始まりを告げる。
スプリンターズステークスは戦列復帰したニホンピロウイナーが春の短距離王ハッピープログレスに世代交代を宣告する完勝劇。

秋華賞は春先は勝利することすらままならなかった人気薄のキョウワサンダーが桜花賞馬ダイアナソロンとオークス馬トウカイローマンを破る波乱の決着となった。

そして菊花賞。
一番人気はシンボリルドルフ。
いや、人気とかどうかではなく、この菊花賞はシンボリルドルフの為のレース・・・
シンボリルドルフ以外の馬は人気なんて無関係であるかのような様相だった。

パドックからシンボリルドルフは他の馬を圧倒していた。
誰もがそこにいる馬の王がどれなのか理解できるぐらい圧倒的な存在感。
G 1発騎乗で緊張する澪だったが、シンボリルドルフを見た瞬間、立ち尽くしてしまった。

一瞥、ただそれだけで射抜かれたように立ち尽くしてしまった澪。
そんな澪の背中をベテラン騎手が軽く叩く。

「あれが王者になる馬や・・・よう見とけ・・・だからって言うて、競馬に絶対は無いんや」

関西系の普段おちゃらけた彼がいつになく真剣。
シンボリルドルフの強さを認めながらも食らいついてやろうと言う気概に澪もハッとする。
そうなのだ・・・
気持ちで負けたら終わりなのだ。

気持ちを取り直してシロノライデンに跨る。
やはり普段よりソワソワした感が馬からも感じる。
彼も圧倒的な王の存在を感じているようだった。

馬体重自体はシロノライデンの方が重い。
しかしシンボリルドルフには馬格以上に強者のオーラのようなものが漂っていた。
普段は馬体同様にどっしりしているシロノライデンでさえこの空気にはソワソワしていた。

(落ち着け。私が落ち着かなくてどうするんだ)

澪は自分自身に言い聞かせる。

「お前が緊張してたら馬も緊張する。人気もないし気楽に行った方が良いぞ」

仁藤もそう澪に声をかけた。

ただ幸いだったのは、そんな雰囲気は澪とシロノライデンに限った話では無い。
他の陣営もどこか普段とは違う雰囲気があった。

前年度に三冠馬が誕生した京都も雰囲気は異様だったと仁藤も覚えていた。
だが、その感覚は幾度となく二冠馬が誕生した年の雰囲気と変わらぬ感じではあった。
今回は何処となく違う・・・
シンボリルドルフと言う圧倒的存在感は、経験豊富な仁藤ですら気遅れしてしまうぐらいだった。
実際に対する騎手のプレッシャーたるや相当なものだろう。


関係者や観客全てが一頭の馬の雰囲気に飲まれる中、競馬場にファンファーレが響き渡る。
澪は心を落ち着かせる為に何度か大きく息を吐きながらゲートへ向かう。
いつもはもっさりしたシロノライデンすら、何故か逃げ込むようにゲートに入ったのだ。

そして、ゲートが開く。
スタートダッシュのさほど良くないシロノライデンはいつも通り後方待機。
思ったよりスムーズな事に澪も少し安心する。
ゲートに入った瞬間、頭が真っ白になるぐらいだったが、ここは何だか馬に助けられた感があった。

内枠を利してロングハヤブサがダッシュ良くハナを切る。
ダービー2着馬のスズマッハが前方寄りの位置につけ、シンボリルドルフは好位から中団くらいか。
ルドルフを後ろから追いかける形になったシロノライデン。
澪にはその姿もどこか余裕があるように見えた。

神戸新聞杯で3着だったゴールドウェイが最後方で1周目の淀の坂を下っていく。

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