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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 229

なんとなくだが、舘悠という男は自分のライバルではないという思いも澪は抱いていた。
身近に競い合う存在がいるのはいいことなのだが。

この後輩は、いずれ自分をあっさり超えていくんだろうな、という風にしか思えなかったのだ。

「澪ちゃん、今晩空いてる?」
「はあ」
検量所の前で澪は寛子からそんな風に声をかけられた。

「悠くんの新人賞を祝って飲み会だよ」
「まだ決まってもないのに」
そう言いつつ澪は笑っていた。

そんな会話が繰り広げられた暫く後。
中山競馬場では暮れの締めくくりのG 1、ホープフルステークスが始まろうとしていた。
本命はマルゼンスキー産駒の大物、サクラチヨノオー。
ここまで3戦2勝。
素質は折り紙付きだった。

対抗となったのがプラニフォリア。
こちらも3戦2勝。
牝馬ながら実力はサクラチヨノオーと変わらないと評価も高い。
それはオッズにも現れており、2頭の差は殆ど無かった。
それに続く人気のカゲマルやツジノショウグンとはオッズ的にもかなり離れており、サクラチヨノオーとプラニフォリアの一騎打ちとの予想となっていた。

奥原としては来年のオークスを見据えて、あえて阪神JFではなくこちらを選んできた。
同じ美浦所属のサクラチヨノオーの強さはよく分かっていたが、この距離ならほぼ互角に戦えると思っている。

「向こうは、サクラスターオーがああなったからって言うのが意気込みになってる気がしますね」
「そうだね、だからと言って手は抜けないけどね」

愛美と奥原はそんな事を話していた。

頭数は少なく、プラニフォリアは出走中唯一の牝馬。
しかし素質では牡馬にも引けを取らないと奥原は確信を持っていた。

レースはツジノショウグンが先手を奪い、サクラチヨノオーはすんなりと2番手につける。
そのすぐ後ろにマークするようにプラニフォリア。
ライバルはこの1頭だけだという意思の表れだ。

サクラチヨノオー鞍上の児玉もプラニフォリアの鞍上的家も互いの手の内を知る者同士。
知りながらも王道の競馬をする児玉と、知っているからそこピタリとマークする的家。
お互いの性格が出ている戦いだった。

ツジノショウグンが淡々としたペースを作る中、チヨノオーは2番手のまま。
プラニフォリアは少し離れて馬群の中。
チヨノオーの上で児玉は苦笑する。

プラニフォリアはチヨノオーの完全に死角・・・
大きく振り返らないと見えない位置に付けている。
しかも気配を感じさせない距離を取っている辺りが、逆にチヨノオーだけを狙っている感が出ていた。
的家は女性人気の高い爽やかな好青年なのだが、騎手的家は厭らしいぐらいの勝負師なのは分かっている。
故に苦笑しながらも児玉は楽しくなってきているのを感じていた。
何故なら、彼も勝負師だからだ。

ツジノショウグンの作るペースは緩く、勝負どころに差し掛かろうとしても誰ひとりとして動かない。
2番手のサクラチヨノオーは後続に蓋をするような感覚で居座り、その後ろの馬たちも同様。
直線までこの状況が続くかに思われた。

そこで、先頭のツジノショウグン鞍上の岡江がピッチを上げた。
サクラチヨノオーの児玉もそれに反応して追い出す。

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