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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 228

「私からもお願いします」

平川もエリックに頭を下げる。
開業して最初に得た名馬・・・
故に欲が出た部分は否定できない。
色々言い訳はあるが、こうなったのは自分の欲と焦りだと責める気持ちが強い。

そんな関係者の悲痛な思いにエリックは馬運車の天井を見上げる。
可能性はゼロではない。
だが、それは馬にとって地獄の苦しみなのだ。
シャダイソフィアは運良く生き残ったが、心身共に負ったダメージは計り知れないものがあった。

やると言う答えは獣医として出すのは難しい。
だが、エリックの脳裏に幸子の顔が浮かび・・・
苦しい表情ながらも重い口を開いた。

「助けれる保証は殆どありませんが・・・やるだけはやりましょう」
「ありがとうございます!」

金と平川が頭を大きく下げる。
彼らもエリックがシャダイソフィアを救った事は知っていたし、サクラスターオーを走れるまでに仕上げたもの彼だと知っている。
故に藁にも縋る思いだったのだ。

エリックは大至急で北海道にいるヘンリーも呼び寄せ、サクラスターオーを生かす為の手術に全力で取り掛かるのだった。


一方、レースを終えて引き上げてきた澪。
松山が出迎え、プチソレイユのケアを行う。

「最高のレースができたね」
「途中までは持つか不安でしたよ。この仔がよく頑張ってくれました」

プチソレイユを労う澪。
周囲の関係者たちがソワソワしていたり、唯ならぬ空気感に首を傾げる。

「何かあったんですか?」
「ああ…サクラスターオーがね。脚をやってしまったみたいだ…」

ああと澪の口から何とも表現出来ない声が漏れる。

「調子が良過ぎた・・・怖いぐらいになぁ・・・」
「ええ・・・怖いぐらいでした・・・」

松山も何とも言えないような表情でそう言うのに澪も同意する。
競走馬は不調で怪我する事も多々あるが、好調な時も落とし穴がある。
特に脚元の強く無い馬ほど好調な時は怖いと経験が松山にはあった。
普段ハードトレーニングを行う仁藤厩舎に居るからこそ、その辺りの事を気にする癖があったし・・・
サクラスターオーの好調過ぎる出来には胸騒ぎを2人は感じていた。
それが的中した事に、どこかやるせない気持ちを感じてしまったのであった。


そしてそのサクラスターオーは、手術を終えて涼風ファームに移送された。
かつてシャダイソフィアを治療した馬房に移され、馬体を固定する。
ただ今回は女性陣が全員身重なのが前回より厳しい条件だった。

特にエリックが気にしていたのが幸子の精神状態だ。
身重な上に高齢・・・
胎児の影響も考えなくてはいけない。

幼駒時代のサクラスターオーを実の息子のように思って、自らの乳まで与えていた幸子。
中継では競走中止のシーンは大きくは扱われなかったが、その知らせを知った時は大きなショックを受け、倒れてしまったとエリックは後にラルフから聞いた。

樹里も涼風ファームに駆け付けたかったが、ホープフルステークスが数日後に迫っている中でスケジュールが追い付かずに断念していた。

そのホープフルステークスにはプラニフォリアが出走する。

その同日、スーパークリークが未勝利戦に出走して勝利。
舘悠は新人としては驚異的な69勝目を挙げた。
しかも、そのレースの2着はそれ以前に新人最高勝利記録を打ち立てた澪であった。

「おめでとう、凄いよね悠くん」
「ありがとうございます!」

屈託ない笑顔で澪に応える舘。
今回はスーパークリークの強さが際立っていたが、舘の騎乗技術がそれを上手く引き出していたのは仁藤厩舎の馬だからこそよく分かっていた。
自分なら恐らく違う乗り方していただろうと思うし、そんな乗り方できる新人はいないだろうと思っていた。

「澪さんならどう乗ってました?」
「逃げてたわね、きっと」

そう澪が答えたのは理由がある。
彼女もまだ若手でしかない。
いくらリーディング取ったと言えど、まだ好き勝手言える立場でない。
故に目先の勝利に拘る必要もあるし、これだけの馬で勝てないとあれば自厩舎なら兎も角、他厩舎なら問題になる。
なので若手でしかない舘が他厩舎先を見据えて乗れると言う信頼を得た事が凄いと思っていた。

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