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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 227

とは言え、プチソレイユに余力は十分残っている。
勝つのは中々難しい相手とは言え、そうでなければこんな戦術は取らない。
自慢のスタミナで後続の脚を封じていく事が数少ない勝機を引き寄せる術と思っていたのだ。

それは隣の郷家も同じ。
そして彼はベテランであり、多くの引き出しを持つ名手でもある。
澪が早いペースの中でもプチソレイユに息を入れさせたタイミングを見逃さなかった。

手前を変えてスッとレジェンドテイオーを前に行かせる。
プチソレイユを少し交わし、レジェンドテイオーが初めて先頭に立った。
プチソレイユのやや後ろで温存していた余力をここで使ってきた訳だ。

そのままコーナーを回りながら加速させる。
強気な性格と強引な戦法を得意とすると言われる郷家だが、その騎乗技術はトップクラス。
遠心力を上手に殺しながらコーナーを回る技術は絶妙だった。

それでも澪はあきらめない。
余力のあるプチソレイユを手綱を動かし気合を促す。
若干頭は高く上がったが、食らいつく力を見せた。

レジェンドテイオーがわずかに先頭に立ったのを見て、後方各馬が動く。
最内のミスターブランディも差を詰める。
追い上げる中ではユーワジェームスとメジロデュレンの手ごたえがいい。

スタンドの騒めく歓声。

ただしそれはヒートアップする先頭争いにだけ、ではなかった。

ズルズルと下がっていき最後方になる馬が一頭。
完全に速度を落とし、4コーナ辺りで完全に止まる。
騎手が降りた事で騒めきが更に大きくなる。
ここに居る者はその行為が何か分からぬ訳が無い・・・
故障だ。

しかもそれが一番人気のサクラスターオーであった事が余計にスタンドを騒めかせた。
殆どの騎手は異変に気付きつつも、何が起こったのか分からぬ者が大半であった。
特に先頭争いをしている者達はそうであった。

何も知らぬ澪は、レジェンドテイオーに先頭を奪われながらも追走して最終コーナーを回って直線に入る。
余力はまだある。
スタミナだけでなくパワーもあるプチソレイユは坂もさほど苦にはしない。
坂の登り際でレジェンドテイオーを再び差し返したのだ。

だが、レジェンドテイオーも粘る。
互いに早いペースで走りながらも余力をなんとか残してきた2頭。
やや後続が離れた事も幸いしてか、後続が中々2頭を捕まえれない。
とは言え、ジリジリとその差は詰まっていく。
中でも抜群の脚で追いかけて来たのがメジロデュレンだった。

前年の菊花賞馬。
しかし脚元の不安もあって4歳の今シーズンはほとんど休養。
ようやく秋になって復帰したが、成績は冴えず、ここも人気薄だった。

しかしそんなメジロデュレンも今回は伸びが違う。

残り200でさらに加速して逃げ2頭を捕らえた。
レジェンドテイオーは力尽きて失速。
プチソレイユは必死に粘ったがゴール前で強襲してきたユーワジェームス、ハシケンエルドらとの2、3、4着争い。

確定のランプが灯り、プチソレイユは3着。
2着にこれまた人気薄のユーワジェームスと波乱の立役者となったのだ。

そしてもう一方の波乱・・・
馬場に入った馬運車の中に調教師の平川、オーナーの金。
そして吉野と、彼に連れられたエリックが居た。

「楽にしてやるべきだ」

エリックの答えは明確だった。
同じく獣医も首を横に振る。
三本脚で立つサクラスターオー。
球節から下が完全に折れ曲がった状態・・・
靭帯断裂及び指関節脱臼。
助かる見込みのほぼ無い負傷だ。

「何とかしてやれないのか・・・」

金の悲壮な声。
脚部の不安がありながらも絶好調。
怖いぐらいに闘志の乗ったサクラスターオーだったからこそゴーサインを最終的に出したのだが、余りにも結果の無惨さに顔面は蒼白だった。
彼にとって、この血統の思い入れは人一倍強く、駄目なのは分かっていてもそう言わざるを得ない心境だった。

それは吉野もよく分かる。
それ故にエリックに声をかけたのだ。
だが、エリックも獣医である。
心苦しくとも、言わねばならぬ事もある。

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