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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 218

阪神芝2000m。
血統面からデビュー戦にはベストの条件ではある。
クリークは係員の誘導に素直に応じて真っ先にゲートに入る。
小頭数だが他の馬のゲート入りでもたつき時間がかかった。

抜群とはいかないまでもいいスタートを切った。
そのまま2、3番手あたりのポジションで運んでいく。

ただ、舘はどうしてやろうかと思案していた。
何故ならクリークが遊びながら走っていたからだ。

デビュー戦の新馬達は、レースと言うのが普段と違う事は理解する。
理解した上で戸惑ったり興奮したりと様々なタイプがいるが、クリークの場合は理解した上で仲間と遊んで走っている感覚なのだろう。
そのせいか、スタートして内へ外へとヨレながら走っていたぐらいだ。

人懐っこいし馬同士でも争うタイプでない性格がそうさせてるのかもしれないが、この性格は直しておかないとレースに支障が出かねない。
だが、舘は性格の矯正には消極的だった。

(いい子だしなぁ・・・ガツガツするの嫌なんだよなぁ)

舘の思案はそう言う所だった。
この性格も活かしつつ勝利を目指す。
難しいかもしれないが、やってみたい事でもあった。
そんな普通は考えない事を考える辺りが、彼が非凡である所以だろう。

とりあえず道中はクリークの好きに走らせることにしよう。
遊びながらにしてもレースに行っての前向きさはある。
これで他の馬や騎手に迷惑をかける制裁ものになったら厄介だが、クリークにそういうところはなさそうだと舘は感じていた。

そのまま3番手あたりのポジションで勝負どころ。
このあたりで一度気合をつけさせるとどうなるか。

舘が追ってみた所・・・
クリークは更に内へ内へとヨレ、内ラチに激突しかけて今度は外にヨレる。
そのせいで順位をズルズルと落とし馬群に飲み込まれていく。

普通ならこれで終わりだ。
素質はあれど、こんな癖の悪さを出してしまえばレースにならない。

だが、クリークは違ったのだ。

残り僅かの所でグンと加速するクリーク。
その僅かな距離でごぼう抜き。
凄まじい脚を使って上位に食い込んできたのだ。

結果は先頭に届かずの2着。
鞍上の舘はこの結果に身震いしていた。
負けた事にではない・・・
たった百数メートル、クリークの本気の脚の凄まじさにだ。
これは只の馬では無いと、経験の薄い舘ですら思うぐらいに強烈なインパクトだった。


レースを見守っていた仁藤は苦笑気味。
あれだけ遊んで、よく2着になったものだ。
自分の調教師人生で最高の素質と思っていたが、それは間違いでないらしい。
負けてなお、それを実感したレースだったのだ。

「すみませんでした」
レース後、引き上げてきた舘が仁藤に頭を下げる。

「いやいや、アレでよく2着に来れたなぁ」
「最後にほんのちょっとだけでしたけど、いい脚を使ってくれました」

「あの馬は絶対凄い馬になりますよ」
舘の言葉に頷く仁藤。

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