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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 215

嫌味ではない。
仁藤の軽い冗談だ。

「ええ子やしな・・・それでいて上手いわ」

仁藤が誉めると、ちょっと嬉しそうにする寛子。
その寛子に仁藤は『流石は舘の息子や』と彼の父親を思い出す表情となる。

舘の父親は『魔獣師』の異名を持つ元騎手で、現在は引退して調教師となっている。
物腰も騎乗も柔らかく調教も美味かった。
穏やかな人柄なのだが、勝負に入ると異名通り魔術のような騎乗で勝利する関西随一の騎手だった。

「ガーベラで澪を中京で使うやろ?」
「はい、勿論です」

そんな話から唐突にそんな事を言う仁藤。

「その日に阪神で新馬戦があるねん・・・悠に頼みたいんや」
「えっ?!」

その時期の新馬戦に出る馬・・・
仁藤厩舎によく出入りする寛子だけに知っている。
今年の新馬と言うか、関西でトップクラスの素質を持つ馬のデビュー戦なのも知っていた。

「クリークは悠で行きたいが構わんか?」

素質馬スーパークリークの鞍上に悠を仁藤が選んだ。
それを聞いて寛子の背中が泡立つような感触で震えた。

仁藤の性格なら、よほどの事が無い限りは一度乗せた騎手は主戦として使う。
つまり、クリークの主戦を澪ではなく悠に指名したと言う事だ。

「ありがとうございます!・・・仁藤厩舎の看板になる馬をっ!」
「大袈裟や・・・ええ子やから頼んだだけや」

これは仁藤からのご褒美なのだろう。
寛子は小躍りしたい気持ちを抑えながら自分の厩舎に帰ったのだ。


舘悠は濱松厩舎で特別な存在になりつつある。
既に澪が打ち立てた新人最高勝利記録は追い越したスーパールーキーで、あの名手の息子。
競馬界のプリンスだが、濱松厩舎でも王子様だった。

最初は『悠くん』と呼んでいた濱松厩舎の女子厩務員達からは最近は『悠様』と呼ばれ・・・
代わる代わる悠の宿舎に行っては炊事洗濯掃除など通い妻のように世話を焼き、仕事の時もバレットやスケジュール管理までやってしまう。
彼女達だけでなく、寛子も母親のような世話焼きをしてるから、まさに濱松厩舎の王子様になっていたりする。
それでいて天空になったり怠けたりする事なく、見事な成績を残すのだから大したものなのだ。

一方のスーパークリーク。
本来なら夏の阪神、中京、小倉辺りでデビュー出来たところを体調を崩したことでいったん取りやめ、放牧して立て直した。
幸い足元や馬体の故障でなかったため十分に乗り込めて、満を持してのデビューとなる。
舞台は阪神の芝2000m。

デビュー週の調教でまず舘に跨らせてイメージを持たせる。

そして、その前にはジャパンカップがある。

今年は国内海外共にビッグネームの少ないレースとなった。
ラモーヌとトリクティプの女傑対決にどの馬が食い込んでくるかが見所となるが、どちらも遠征疲れか調子を落としての参戦となってしまった。
特にラモーヌの方は体重も相当落とした状況であったが、走れない状況ではないのと、年末の有馬記念まで見送ったとしても距離もコースも不利な事からジャパンカップを選んだ経緯があった。
つまり、帰国後の体調とかを考慮した結果、このジャパンカップでの引退と言う事になった訳だ。

牝馬は成績よりも無事に走って牧場に返すものと言う意識が競馬関係者には強く、ラモーヌも今年一杯で引退させるのは奥原の中でも規定路線だった。
ただ引退レースはファンの御披露目と言う側面もあり、国内で一戦して引退と言う路線は必要とは考えていた。
したがって、体調の回復を待って不利な有馬記念より、得意コースでもある府中のレースに挑んだ方が結果として良いだろうと選んだ訳である。

一方、ライバルのトリクティプの方は来年も現役続行。
疲労で調子は落としたものの、タフが売りの馬でまだ引退するには惜しいとの判断なのと、元の馬主が破産して手放した経緯でスノーベリー牧場が入手した経緯から、資金の回収的な思惑もあるようだ。

そんな2頭に対する国内勢は、G1馬はトウカイローマンのみで、レジェンドテイオーとダイナアクトレスの重賞常連組が参加だが、相当見劣りする。
海外からはムーンマッドネスとルグロリュー、サウスジェットとG1馬が参戦しているが、トリクティプと比べれば随分と格落ち感がある。

とは言え、レースは何が起こるかわからない。
澪はラストランのラモーヌに跨るが、やはり馬体の寂しさを感じていた。

普段からパドックでは落ち着いて歩くラモーヌだが、疲労からか躍動感が無く普段以上に落ち着いてしまっている。
ここまでの調教も疲労と調子の回復を優先してきたと聞いたが、凱旋門賞より悪く感じる。
ただ、澪が乗った時に少し気が入ったように感じたから、走る気は無くしていないようだった。

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