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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 22

想像していなかったくらい良いものができました、と電話の向こうの真奈が嬉しそうに話す。
一時は牧場が潰れてしまうのではと覚悟していたからこそ、その嬉しさは計り知れないものだと樹里は感じていた。

祐志のことを思うと浮かれている暇もないが、彼女たちとは素直に喜び合いたい。気持ちは複雑だ。

「そう言えば、ウチの馬を買いたいという申し出があったんです。わざわざこちらにまでいらして…ただ、それがあのモガミの仔で。奈帆がこの仔は誰にも売りません!って怒ってしまって…まあ、向こうも本気ではなかったようなので問題はなかったんですが」
「あー……」

樹里はため息をついた。
誰がやって来たのか容易に想像できた。

間違い無く、元夫の佐原祐志だ。
目的は、樹里に対して俺のモノだとアピールするマーキング行動なのだろう。
嫌な男だと思いつつ、決して嫌いになれない樹里であった。


そんな気持ちになりながらも、改装の終えた涼風ファームに樹里がやってきた。
繁殖牝馬と子馬の馬房に続き、老朽化していた事務所や住居施設が完成。
ヨーロッパ風の落ち着いた色合いの建物は、観光客を招いても大丈夫だろう。
牧場と合わせての写真撮影でも映えると思うぐらい素敵な造りに樹里も満足していた。
事務所棟に連なり、真奈達の住居棟や従業員宿舎、そしてゲストハウスを兼ねた建屋も樹里の思った通りのものが出来ていた。

「素晴らしい出来ですね」
「はい、こんなにして貰っていいのかと・・・」

健三の頃も出資して改装する話は持ちかけられていたが、慎太郎はそんな費用あるなら馬に使うタイプだった為、戦前の建屋をそのまま使っていた経緯があった。
そんな古めかしい建物から打って変わって新しい住居になった事で、奈帆を始めとする子供達は大喜びのようだ。

奈帆はまだ子供ながらも牧場の現実を知っていて、樹里がいろいろと出資しなかったらどうなっていたかもわかっているから、喜びは人一倍かもしれない。

「奈帆ちゃんはどこに?」
「たぶん馬のお世話をしていますわ」

樹里は建屋をいったん出て馬房の方に向かう。
新しい馬房の雰囲気も確かめながら歩いていると、仲良く仔馬と佇む「妹」の姿があった。

彼女とその笑顔を守ってやりたい。
そう思う樹里だった。


シロノライデンにとって最初の関門、神戸新聞杯が始まろうとしていた。
フルゲートに満たない頭数だった事から抽選が無かった事が幸いだった。
14頭でのレースで人気はダイゼンシルバー、エーコーフレンチ、ゴールドウェイなど。
シロノライデンも条件馬ながら上位人気に食い込んでいた。

シロノライデンの目標は菊花賞の優先出走権の獲得。
トライアルレースの神戸新聞杯には上位入線に菊花賞の優先出走権がある。
本賞金の足らないシロノライデンであっても、勝たずともそこに入りさえすれば菊花賞に出れるのだ。

「何とか勝たせてやりたいですね」
「せやな、でも焦ったらアカン・・・勝負は来年以降や」

少し気負いする澪を宥めるように仁藤調教師が言う。
このメンバーの中で実績では見劣りしても、能力では決して見劣りしない。
それに夏の盛りを過ぎた辺りから調教でも遊ぶ様子を見せなくなってきた。
まだ馬が幼い所を残してはいるが、競走馬として随分出来上がってきた感があった。

そして鞍上の澪。
夏競馬の間にメキメキ腕を上げ、ここまでの勝利数は24。
あと一頑張りでGT騎乗にも手が届くところまできた。
彼女が気負う部分はそこにもあるのは仁藤にはよくわかっていた。

「変な意識はせんで馬優先で回って来い」

パドックでシロノライデンに跨った澪に、仁藤はそう声をかけた。

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