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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 208

リトルウイングの隣まできたサクラスターオー。
澪から見れば、それは少し早いように感じた。
パドックから感じたサクラスターオーの出来は良いように見えなかった。
だが、ギラギラとした目に、どこか恐怖と不安感を覚えた。
それで何となく気にはなっていたが、この動きは精神的な限界点で動いたのかと少し勘繰る。

そのままの位置取りで淀の坂を降り、いよいよ直線へ。
リトルウイングは手応え十分。
ゴールドシチーと共に追い出して行った。

やや外目をゴールドシチー、馬群をかき分けてリトルウイング。
グンと脚を伸ばし先頭集団を捉える。
リトルウイングは余力はあるし、ゴールドシチーとの叩き合いでも末脚は勝っている。
ゴールドシチーから半馬身前で駆けるリトルウイングが馬群をかき分けて先頭に迫った。

その先頭は失速した逃げ馬に変わりレオテンザン。
メリーナイスがそこに迫るが競り落とす勢いは無い。

大外枠というハンデか、並んだところまではよかったがメリーナイスも力尽きた感じである。

それに変わって追ってくるのはサニースワローにカイラスアモン。
リトルウイングはゴールドシチーと馬体を併せながら伸びを見せる。

しかし。
それ以上の鬼脚を発揮したのがサクラスターオーだった。
あの時点で動いたのは精神面の限界ではなかったのだ。

「しまった!」

リトルウイングは必死になって追いかける。
それでもその差は縮まることはなかった。

『サクラスターオーです!菊の季節に桜が満開!』

大歓声を聞きながら唇を噛む澪。
その前を駆け抜けたサクラスターオーの馬体・・・
鬼気迫るとはこの事だろう。
あのシンボリルドルフの菊花賞で受けた衝撃とはまた違った、身震いするような恐怖感をそれに感じてしまったのだ。


レースを見ていた仁藤はまた違った感想だった。
彼もベテランで、特に長距離全盛期に競馬人生の大半を送ってきていた。
その彼から見て、リトルウイングは大健闘だったし、古馬の大目標である天皇賞春でも戦える内容に見えていた。
まあ、勝った馬が強かった。
そして、それは競馬ではよくある事だった。

「すいません・・・」
「まあ、頑張ったやないか、お疲れさん」

澪に対してそう怒らない仁藤であるが、今回も特に怒る事は無かった。
恐らく今レースを思い返しても勝てるイメージは全く無かっただろう。
それだけサクラスターオーが強かったと言う事だ。

「しかし、運の無い子や」

これでリトルウイングはクラシックを全てを2着。
ある意味強さは見せたが、それ以上に運の無い事に仁藤も苦笑するしか無かったのだ。

「これも競馬なのね」

菊花賞のゴールの瞬間、樹里はそう言ってため息をついた。
リトルウィングは全力を尽くした。
全力を尽くしての2着。負けて強しだ。

「あの子の強さは想像以上ね」
「まったく、俺たちの不安をパワーに変えてやがるぜ」

サクラスターオー。
勝ったのが彼ならば、余計に文句は出ない。

ただし激戦を戦ったツケは出る。
これで年内は出走しない、とオーナーも陣営も決めていた。

そんな菊花賞の次週は天皇賞。
今年は例年にも増して豪華なメンバーが集まっていた。

その中でも注目は、中距離に殴り込んできたマイル王3頭。
ニッポーテイオー、フレッシュボイス、そしてウィンドフォールである。
それぞれが卓抜したスピードを持つ馬で、この3頭が上位人気を独占する。

その他にも女傑ダイナアクトレス、欧州帰りのシリウスシンボリ、G1常連組のレジェンドテイオー、芝砂不問の万能牝馬トチノニシキなど、単なる脇役では済まない馬も参加してきていた。

ウィンドフォールと澪は久々のコンビであった。
澪の遠征で何度か鞍上が変わるウィンドフォールだが、癖が無く乗りやすいタイプで久々乗っても間が開いた感覚はさほど無い。
更に古馬になってどっしりと落ち着いた感が出てきているのもそれを強調していた。

それにウィンドフォールも年齢的に今年一杯だろうと奥原も考えていた。
プリンスリーギフト系のファバージ産駒のウィンドフォールは、その系統の人気から種牡馬としての要望も大きい。

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