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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 207

それでもサクラスターオーの状態は万全とは言えず、菊花賞の10日前まで出走するかは不透明だった。
そんな中で主戦の吾妻が騎乗して追い切りが行われる。
追い切りを終えて引き上げてきた吾妻は調教師に言った。

「これなら大丈夫です。行きましょう」

こうしてサクラスターオーの菊花賞出走が決まったのだ。

オーナーの金は「1%の可能性に賭けてみよう」と言った。
その一方で競馬会の獣医師は「ギリギリ出走可能な状態です」と陣営に告げた。

「走るのが宿命のサラブレッドだから・・・特にクラシックレースとなれば特別なのだ・・・」

獣医でもあるエリックからしても苦渋の決断だった。
競馬会の獣医師と全く同じ見解だったが、サラブレッドにとってのクラシックレースの重みが分からぬ訳ではない。
それ故、オーナーサイドには今シーズンは最大走っても2レース。
状況によっては、菊花賞終了後に休養も提案していたのだ。

そんな状況であるから、サクラスターオーの人気は皐月賞馬ながら10番人気。
上位人気はダービー馬メリーナイスを筆頭に、ゴールドシチー、マティリアル、リトルウイングが占める。
特に順調にここまで調整してきたリトルウイングは澪も期待していた。
夏場からの体重増はほぼ成長分、神戸新聞杯後も体重が減る所か更に増で菊花賞に挑んでいる。
寝藁まで食べるぐらい食欲も旺盛で、体重が増えすぎる傾向が止まらないぐらいだ。
ハードワーカーの松山調教助手が坂路で追いまくって体重管理していて、心肺能力も上がった今なら長距離もこなせそうな雰囲気はあった。

春の2冠は惜しいレースだった。
最後の一冠こそはという強い思いが厩舎の誰もが感じている故の渾身の仕上げだった。

スタートは綺麗に揃う。
リワードランキングが果敢に逃げ、レオテンザンの舘がそれをマークする形で2番手。
3番手にメリーナイスが続き、リトルウイングはゴールドシチーとともに中団より少し前目、さらにその後ろにサクラスターオーという流れ。

長距離戦であるからじっくりと行く作戦だ。
特にステイヤーとは言い難い血統だけに、道中のロスは極力避けたかった。

故に正面スタンド前では、馬群の内側に入れる。
G1独特の大歓声にヒートアップする馬も多く、長距離戦ではそれが命取りになりかねない。
リトルウイングも元々過敏な馬だけに、ここでヒートアップするとレースが終わってしまう。

そんな澪の心配を他所に、リトルウイングは大歓声にピクリと耳は動かしたものの、ペースを乱す事無くスタンド前を走る。
いやほんと成長したよねと澪もこれには安心するぐらいであった。

若干ざわつく馬もいたものの、長距離戦らしく淡々とレースは進み1コーナーに入る。
ペースは若干スローではあるが、許容範囲内。
京都競馬場はその構造上、3コーナーと4コーナーで仕掛けにくいので、バックストレッチでの位置取りが割と重要になってくる。
特に経験の薄い騎手は、その辺りをおろそかにしてベテランにやられるケースが多いのだが、レオテンザンの舘はキャリア十年はありそうな絶妙な位置取りで逃げ馬を追走していた。

神戸新聞杯の時も感じたが、とても新人とは思えない落ち着いたレース運びをする男だ。前回は直線動いて突き放すことができたが、今回は同じように行くことができるだろうか。

淡々とレースは流れて2周目淀の坂。
逃げ馬が手ごたえが怪しくなり、レオテンザンが並びかける。
それをピッタリマークして追いかけるメリーナイス。
リトルウイングは追い出しは開始せずにまだ様子を伺う。外にいるゴールドシチーも同じ。
そこに1頭。
サクラスターオーが外からスーッと上がっていった。

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