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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 205

レースの半分を過ぎたあたりでもリファレンスポイントとシャラニアの2頭の競り合いは続く。
並の馬なら早々と脱落して行っておかしくないほどのペースだが、そこは欧州屈指の強豪だからなのだろうか。

飛ばしに飛ばした2頭はそのまま約530mの長い直線に突入する。
後続もここまで来ると当然差を縮めてきていた。

狂気の走りを見せてきたリファランスポイントの脚が鈍る。
それは当然の結果ではあったが、まるで糸が切れたようにリファランスポイントの脚から力が奪われていった。

それでも英ダービー馬の意地・・・
ミルリーフの最高傑作のプライドが下がる事を許さない。
動かなくなる己の脚を叱咤するように身を震わせ、左右によろけながらも必死で走り続ける。

彼と競っていたシャラニアは完全にバテてズルズルと下がっていく。
その2頭を必死で追走したナトルーンやグルームダンサーも息切れしていた。
それでも、それでも王者のプライドがリファランスポイントを突き動かす。
もがきながらも前へ前へと進もうとしていた。

だが・・・
現実は、レースは残酷だった。

トニービンとムトト。
欧州屈指の強豪2頭がバテた先行勢を交わし・・・
リファランスポイントを追い抜く。
既に差し返す自慢の脚すら失ったリファランスポイントに抵抗する術は無かった。

そして、それ以上の豪脚で駆け上がってくる馬がいた。
トリクティプ、そしてラモーヌだった。

道中から互いをマークし合ってきた2頭は馬体をまったく併せながらグングン伸びてきた。

「しつこいわね!」
「そっちこそ!」

澪とシャロンの追い比べ。
この2頭がトニービンとムトトに並び、4頭横一線になってー

ーアジアの女傑2頭が抜け出す。
馬も鞍上も女の戦い。どちらも一歩も譲らない。
そのまま馬体を併せたままゴール…

…なのだが、ラモーヌもトリプティクも勝者にはなれなかった。

2頭をさらに凄まじい末脚で交わし去ったのはトランポリノ。

狂気のレースの最後を締めくくったのは、トランポリノの驚異的な豪脚だった。

まさにそれは圧巻だった。
先に加速したトリクティプやラモーヌを見ながら、直線半ばからのゴーサイン。
バテた先行勢を交わすロスがあったムトトやトニービン、大外に持ち出したトリクティプとラモーヌの間・・・
ここぞと言う間隙を縫って、最短距離で並ぶ間も無く交わしてゴールしたのだ。
しかも、前年のダンシングブレーヴが記録したコースレコードを大幅に縮める走り。
良血の期待馬ながらG1未勝利のトランポリノの勝利は、大本命リファランスポイントの敗戦と同じぐらいの衝撃を放ったのだ。


そして、ゴールを過ぎて下馬したゴーウェン。
前脚を引き摺るリファランスポイント。
己のプライドを賭けた故の代償・・・
苦渋のゴーウェンとは対照的に、リファランスポイントの瞳は澄み切っていたのだった。


色々衝撃だった凱旋門賞。
樹里もどう言って良いのか、言葉を失っていた。

「素晴らしい結果だろうな・・・ラモーヌの4着は」

隣の祐志の言葉。

凱旋門賞入着だけで日本競馬にとっては快挙・・・
それと同時に世界の競馬の壁の高さに圧倒される結果となった。

「だが、これで・・・ドンカスターの評価は地に落ちるな」
「どう言う事かしら?」

祐志の呟き。
彼の視線は満身創痍の王者に注がれていた。
恐らくこれが最後のレースとなったリファランスポイントにだ。

「ニジンスキーが負け、リファランスポイントがこの結果だ・・・ここから先、セントレジャーに向かう馬が減るだろうな」

ドンカスター競馬場で行われるセントレジャーは、日本で言う所の菊花賞と秋華賞に当たる英クラシック3戦目だ。
しかし近年、長距離かつ開催時期のタイトな位置にあるこのレースの意義が減少し、参戦する英ダービー馬やクラシックを沸かせた馬が減っていた。
昨年のダンシングブレーヴも参戦していないし、リファランスポイントの挑戦も久しぶりの英ダービー馬だった。
それがこの結果になったのだ。
恐らく英三冠が狙える馬ぐらいしか今後参加しないと言う事になっていくかもしれないと祐志は考えていたのだ。

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