駆ける馬 201
最後方から馬群の中に突っ込み、切れ味抜群の末脚で全て切り捨てる。
まさに完勝・・・
ダイナアクトレスの岡江も苦笑いするしかなかった。
そしてレースは入着全てが牝馬。
そんな女の戦いを制したウィンドサッシュは、スプリンターズステークスに向けて良いステップとなったのだ。
ただ、奥原はこの勝利を見ていない。
何故なら、フランスに居るからだ。
その週の日曜日。
ロンシャンにてフォア賞が開催される。
凱旋門賞と同じコースて同じ距離。
言わば凱旋門賞の予行演習とも言えるステップレースだ。
前年、シリウスシンボリがこのレースで2着と好走したものの、本番では惨敗。
本番程ハイレベルな馬が集まる訳では無いが、本番と同じコースを走れると言う利点はある。
奥原が凱旋門賞に挑戦するラモーヌの次走にこのレースを選んだのもその為だ。
そんな奥原の思いを背負った澪と共にラモーヌが走る。
道中は4番手を追走していく。
ロンシャンは京都競馬場のように3コーナーに上り坂があり、そこから下りに入る。
そして、そこからがロンシャン2400mの魔のコースの始まりだった。
3コーナーから4コーナーにかけて直線に見える形状が250m程ある。
通称フォルスストレートと呼ばれるこの場所は、最終直線と誤解しやすく、賢い馬程騙されて脚を余分に使い本当の直線で失速してしまう。
まさに魔のストレートなのだ。
澪もラモーヌもこれに騙された。
フォルスストレートで先頭を捕まえにいき、緩やかな4コーナーで凄まじく長い直線がある事に気付く。
残り500m以上残して先頭に立ってしまったラモーヌ。
覚悟を決めて押し切るつもりで追った所、最後はクビ差残して勝利したが、相手関係が良かっただけでラモーヌは完全に失速してしまっていた。
G1で無いとは言え、ヨーロッパでの重賞勝利は栄誉であったが、正直褒められた内容ではなかった。
むしろ本番に課題を残す結果となったのである。
「走らないと分からないものだねぇ・・・そんな難しいコースだったとは・・・」
「はい・・・戦術を考え直さないといけませんね」
戻ってきた澪から話を聞いて奥原も頭を抱える。
ラモーヌは本番に向けて課題が残る中、澪は帰国しても休みなくレースに騎乗し結果を出していく。
神戸新聞杯。
菊花賞に向けてリトルウイングの秋初戦だ。
ダービーで惜しくも戴冠を逃した仁藤と澪はまずここを落とせない一戦として考えていた。
リトルウイングは馬体からはマイル辺りが適距離とも当初考えられていたものの、皐月賞、ダービーと距離を克服して2着と好走。
ノーザンテーストの底力と言うか、秋に向かっての成長でガッチリとした馬体になると共に、距離に対する融通性もついてきた。
特に心肺能力が素晴らしく、仁藤は3000mを走るのに不足は無いと見ていた。
そして、そもそも仁藤は長距離育成を最も得意としていた。
ダービー後に一月程短期の放牧でリフレッシュしながらも、涼風ファームでも坂路でみっちり調教するよう仁藤から依頼もあった。
帰厩してからも徹底的に坂路調教を行い、このレースに挑んできている。
ダービーより16kg増だが、太め感は一切無く成長増。
それを支えるのは丈夫な脚元と夏場でも旺盛な食欲だった。
フランス遠征等で調教に余り乗れていなかった澪が、別の馬と勘違いする程逞しくなっていた。
牡馬としては大きくない馬だったが、身がついたせいか大きく感じるまでになっていたのだ。
パドックでも実に堂々とした立ち振る舞い。
デビュー戦の時には物見しっぱなしだったくらい気性の幼かった子がここまで逞しくなったのだから澪にとっても感慨深い。
ダービー馬メリーナイスは前週のセントライト記念を勝利。
そのダービーで僅差敗れたリトルウイングもここは結果を残したい。
ライバルは春の実力馬ゴールドシチー、ニホンピロマーチ、サニースワロー、そしてレオテンザン。