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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 199

その的家は鞍上で自然と笑みがこぼれていた。
奥原に依頼され、調教で乗った時から素質には惚れ込んでいた。
柔らかいクッションと弾むような走りは、彼が今まで乗った中で最高峰の感触だったが、レースでもその感触は健在だった。

奥原が的家に依頼したのは、勝ち気過ぎる性格を考慮しての事だった。
素質もあるし、レース勘もある。
ただ性格的に勝ち気過ぎて尻っ跳ねや噛み付き癖があり、調教中に並走馬に噛み付いたり、勝たなくて蹴ろうとしたりと随分とじゃじゃ馬であった。
無論、それは牧場でも多少矯正はされているものの、勝ち気さは長所でもあるので、預託が決まってから奥原もなるべく矯正しない方向で牧場に依頼していた。
むしろ、上手く勝ち気を制御できて良さを引き出せる騎手に頼む方向で考えていたのだ。
そこで候補になったのが的家だったのだ。

「よし、いいぞ・・・今日のお前の獲物はアイツだからな」

馬に語りかけながら鞍上でニヤリと笑う的家。
それはまさに誠実なイケメンではなく、冷徹な勝負師の顔だ。

逃げ馬は軽快に飛ばしている。
おそらく馬も騎手もこのまま押し切れると思っているだろう。
普通だったらその通りだ。

前向き過ぎるプラニフォリアだが、道中は押さえて勝負所から加速させて、そこから馬のやりたいようにさせる、というのが的家の作戦だった。

4コーナーで先頭との差は1馬身。

そこから直線に入っても、差は変わらない。
逃げる馬に鞭が入り必死で追い出すが、差は縮まらない。
的家は追っていない。
ただ追走しているだけだ。
その後ろに後続の馬が迫り、馬蹄の音が大きくなる。

直線も半ば。
追いつかれた所で的家が腕をグイと動かす。
たったそれだけでグンと体を沈めたプラニフォリアが待ってましたとばかりに加速する。
後続を一瞬で置いて行き、逃げ馬も瞬く間に交わす。
そのまま置いて行き引き離していくが、的家はこれ以上追わなかった。

そのまま引き離しゴール。
的家はプラニフォリアの首筋を軽く叩いてやりながらニヤリと笑う。

「やんちゃ過ぎだよお嬢ちゃん・・・コイツは手がかかりそうだなぁ」

間違いなく来年のクラシックの有力候補と騒がれるような圧勝劇。
ただ、鞍上の彼には長所も短所も見えたレースだったようだ。


レース後、奥原に的家が言う。

「あれで鞭でも入れれば、限界を超えて走りそうでしたね」
「限界を越えるかぁ・・・難しいよねぇ」

勝つ事もさる事ながら、馬の将来も意識して乗った結果の感想なのだろう。
強さの中に危うさもあるようだった。

大物感を十分に感じさせてくれたが、それと同時に課題も生まれる。

「育て甲斐のある仔ではありますね」
「そうだなぁ」

プラニフォリアは引き続き北海道で調整し、次走は距離を延ばしてクローバー賞に向かう予定となった。

一方、こちらも新馬戦で強烈なパフォーマンスを見せたオータムリーヴスは新潟2歳ステークスをキャリア2戦目に選んだ。

鞍上は初戦と変わらず舘。
関西馬ながら新潟を選んだ理由は、ローカルながらコースが広く直線が長い事。
そして平坦であると言うローカルの特性もある。

今回も前回同様、後方からの競馬となる。
気性の不安定かつゲートが得意で無いので、後ろから行く方が良いと言うのと、爆発的な末脚と言う武器があると言うのもある。
これは涼風ファームの基礎を作ったライトオブスター母系の特徴の一つで、爆発的な末脚を受け継ぐ傾向にある。
丁度オータムリーヴスの叔父であるシロノライデンがそうだったし、母のアキネバーも瞬発力が豊かだった。
これに父馬のトウショウボーイのスピードを上手く受け継いでいる印象だった。
ただ、精神的な脆さも母系から受け継ぎやすく、オータムリーヴスはその典型とも言える感じであったのだ。


そしてレースは予想通り後ろから。
じっくりと脚を溜めて直線で全てを交わす。
舘も新人とは思えぬ騎乗で重賞初制覇。
それですら興奮した様子は無く、飄々とした顔で戻って来たのだ。

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