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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 192

「凄い馬ですよこれ!」

調教を終えてニコニコと帰ってくる坊主頭が濃くなってきたあどけなさの残る少年。
彼が濱松厩舎所属の騎手であり、新人記録をハイペースで塗り替えている逸材、舘悠である。

「確かに凄いわね・・・」
「はい!凄いです!」

新米調教師ながらフルダブルガーベラのお陰でスタートダッシュに成功した寛子がそんな風に返すと、舘はキラキラとした目でそう言う。
だが、寛子が凄いと言いたいのは、何もオータムリーヴスだけではない。

アキネバー産駒は涼風ファームでも常に期待はしていたのだが、どうも気性が悪すぎる馬が多く今まで大成した馬がいない。
オータムリーヴスも例外ではなく気性が荒く、アキネバーの年齢を考えて後継繁殖牝馬として競走馬にせず繁殖に回す考えもあった。
一応、ラルフやジョンが競走馬として仕込んだものの、意固地になって言う事を聞かないタイプで、彼らも苦労して仕上げたぐらいだ。

そんな背景があるオータムリーヴスを、舘は難なく言う事を聞かせていた。
担当厩務員でも言う事を聞かせれない馬をである。

「凄いのは馬だけじゃないわ、あの子も凄いのよ」
「さすが天才って感じですよねー」

寛子のところに別の馬のケアを済ませた厩務員・高島優菜がやってくる。ちなみに彼女は転厩後のガーベラ担当。

「あの気性難の仔を何事もなく御することができるのが凄いのよ」
「馬と話せるってのも冗談じゃないかもしれませんね」

実際、舘悠は新人らしからぬ脅威的なペースで勝ち星を積み重ねていた。
寛子から見たら澪も凄い新人だったが、その澪に比べても格が違う。

「宝塚記念の日の新馬戦で、彼でデビューさせようかしらね」

そう言う寛子。
そして宝塚記念の当日・・・
舘を背にオータムリーヴスのデビュー戦が行われた。


パドックの周回中も首を激しく上下させて落ち着かないオータムリーヴス。
フルダブルガーベラも気性は激しいが、こちらは更に激しい上に幼さもある。
噛み癖はあるわ、蹴り癖はあるわ・・・
おまけに言う事を聞かない。

だが舘が跨ると、うるさいなりに落ち着きを見せる。
ガーベラの態度はプライド故の振る舞いだが、こちらは本当に我儘・・・
その我儘が、舘にだけはあまり出さないのが凄いことだった。

「本当に悠くんが乗ると別の馬よねぇ」

半ば感心しながら手綱を引く優菜。
ガーベラは気性は激しくプライドも高いものの、やるべき事は理解してるのに対して、こちらは本当に優菜の言う事の大半は聞かない。
だが、舘に対してはビックリするぐらい従順なのだ。

「いい子ですよ、リーヴさんは」

舘はいつも通りニコニコしながら言う。
手の掛かり過ぎるオータムリーヴスをいい子と言うのは本当に舘一人ぐらいなのだ。

いよいよ優菜の手を離れて本馬場へ。
戦いの場に行けば闘争心に火がつくが、それでも暴走するようなことは全く無い。

(この仔は本当にいい仔だ)

待避所まで向かうオータムリーヴスの上で舘はそう確信し笑みを浮かべていた。
デビュー戦は芝の1800m。

血統的にはこなせる距離ではある。
だが、まだ2歳の夏である事と、荒い気性を考えれば短い距離のデビュー戦の方が勝てる可能性は高いと言える。
寛子としては、今回のレースで勝つ事よりも、来年のクラシックを見据えて走る事の方が重要なので、あえて長い距離でのデビューに踏み切ったのだ。

そんな思惑の中、ゲートが開きレースが始まる。
オータムリーヴスは出遅れ。
最後方からのスタート。
だが、舘に焦りは無い。

オータムリーヴスは元々ゲートが苦手。
故に出遅れも考慮しているのもあるが、舘はあえてゆっくり出たのだ。
馬の特性を見抜いての行為だが、いくら新馬戦とは言え、こんな乗り方をするのは度胸がいる。

そして、レース展開も彼の読み通り、掛かった逃げ馬がハイペースで飛ばす。
その中でオータムリーヴスは最後方。
3コーナー回っても舘は動かない。
それどころか4コーナーでも舘の腕は動かないままだった。

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