駆ける馬 181
そんな話をしながら、迎えた大阪杯。
澪はベストの騎乗でタケノコマヨシを上位まで食い込ませたものの、勝ったのはシロノライデン。
田沢の手腕で豪脚一閃。
ライバル達を蹴散らしたのだ。
宝塚記念に続き、中距離G1を制したのはシロノライデンにとっては大きい。
晩成のステイヤー傾向のある内国産種牡馬は総じて不振であり、馬産地の人気も薄い。
ステイヤー血統であるライデンだけに、中距離で勝てるスピードがあると言うのはアピール材料になるのだ。
これでライデンは次走は天皇賞となる。
そして迎えたクラシックシーズン。
その土曜日に阪神牝馬ステークスでプチソレイユが初めての重賞に挑戦。
この馬も濱松厩舎移籍組で、主戦は引き続き澪が務めていた。
ここ2戦はオープン戦で2着と1着と好成績。
この距離をこなせるならヴィクトリアマイルも視野に入るが、健闘したものの3着。
次はもう少し長い距離での重賞挑戦を寛子も考えるようだ。
日曜日の桜花賞はウィンドサッシュ。
ウィンドフォールで若きG1ジョッキーとなった横平が初めてクラシックに騎乗するのだ。
ウィンドフォールで掴んだ戴冠を境に彼にもジョッキーとしての自信を徐々につけていた。
初めてのクラシックでも高松宮記念の時のようにガチガチに緊張したような空気はまったくない。
ウィンドサッシュは年明けて重賞を制して目下上昇中。
2歳女王ドウカンジョーの上を行く3番人気の支持を集める。
しかしそれ以上に力をつけてきた女王候補が立ちはだかる。
マックスビューティだ。
2歳時こそ勝ちきれ無かったものの、3歳に入り本格化。
連勝して桜花賞に臨んできている。
レースを使う度に強くなっている印象すらあり、ここでも中心は間違いなくこの馬だった。
そして、鞍上は田沢である。
それ以外の有力馬はコーセイ、ナカミジュリアン、ドウカンジョーなどもいるが、大本命マックスビューティを前に霞んでいる印象がある。
ウィンドサッシュで桜花賞に挑む奥原も、記者達からはリュウノラモーヌとの対比を問われる程、2番手との差はあると見られていた。
「ラモーヌと比べられるぐらいみたいですよねー」
「そうね、レースが楽しみだわ」
ママとなった紗英と共に観戦する樹里。
今回は長女と次女を伴って来ているが、娘達も物心がつき始めて、単純にお出かけが嬉しい長女と馬が好きで競馬場が楽しい次女と性格で楽しみ方が違うようである。
これで紗英の子供も連れてこれる年頃になれば、賑やかになる事だろう。
4月の2週目とあって向こう正面の桜はすでに葉桜になりつつあるが、ファンファーレが響くとスタンドは盛り上がる。
外枠に入った馬たちのスタートがよく、2、3頭で先行争いを展開する。
マックスビューティはそのすぐ後ろに陣取り、その外にドウカンジョー。
ウィンドサッシュはそこから少し下がった中団グループの馬群の中だ。
ペースは早め。
牝馬のマイル戦でありがちな掛かり気味の早めペースと言う奴だ。
牝馬の難しい所は、牡馬よりも気分屋が多く、ちょっとした事で制御が利かなくなる所だ。
それ故に有力馬が力を発揮できず惨敗し、馬券的には面白くても関係者は気が気でないと言うパターンが多い。
しかしながら、天才と呼ばれる田沢が騎乗するマックスビューティは浮ついたペースに惑わされていない。
人馬がピタリと折り合いをつけているのが側から見ても分かるぐらいだ。
そんな鞍上の田沢は天性の勝負勘を持つが、今回は彼も王道と言える真っ向勝負を挑むつもりでいた。
彼が奇策などで勝負しなくても勝てると言う自信があっての事だろう。
そして、そのうしろの方にいるウィンドサッシュと横平。
若い横平だが、初のG1勝利が彼に随分と落ち着きを与えていた。
競馬一家に生まれたと言う贔屓を除いても、美穂の若手の中でセンスは一番と言われている横平・・・
何となくだが、マックスビューティがどう動きたいかが見えていた。