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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 180

これでいける・・・
そう澪が思った瞬間、ファーディナンドとプレシジョニストがグッと伸びる。
いや、伸びたのではなくガーベラが失速したのだ。
ズルっと下がった所でゴール。

何が起こったのか・・・
澪が憮然としてしまう。
結果は3着。
しかし、どこでスタミナを使ったのか澪も理解できなかった。

今回はラモーヌもガーベラも勝てなかったが、海外の有利馬相手に健闘できた事は大きい。
樹里としては満足な結果だった。

逆に納得できなかったのが澪だ。
ラモーヌの時は仕方なかったが、ガーベラは勝てたかもしれないだけに悔しい。

「最後の方で馬もヨレていたけど、ミオのフォームも崩れていたわ」

見ていたシャロンがそう澪に言う。

「そんなに?・・・」
「ええ、アメリカの騎手達は全くブレてなかったから、多分もっと筋力を鍛えないとね」

澪が唇を噛む。
馬を乗るのに男女差は無いと言われるのだが、追った時の筋力差は圧倒的に出ると言われている。
これは澪の抱える弱点と言っていい。
鍛えてない訳では無いが、日本人より遥かにパワフルな欧米人となると差は更に広がる。

ラモーヌやガーベラには大きな収穫もあったが、澪自身にはそれ以上に悔しさと課題がやってきた海外遠征であった。

その翌週は大阪杯。
昨年はドバイ遠征したシロノライデンだが、今年は初戦にここを選んだ。
最大のライバルは同じく古豪のクシロキング。

仁藤厩舎は2頭出しであり、もう1頭のタケノコマヨシは充実一途の4歳馬だ。

今回、そのタケノコマヨシには澪が騎乗。
と言う事は、シロノライデンは引き続き田沢が騎乗する。

シロノライデンは乗りにくい馬では無い。
澪もこの馬に自分は育てて貰った愛着もある。
だが、あえて乗らなかったのは、田沢が乗ってから変わったライデンを見てきたからだった。

普段はおっとりした馬にも関わらず、田沢が乗ると闘志を見せるようになった。
爆発的な豪脚を持ちながらもエンジンのかかりが遅い馬だったのだが、田沢の手綱によって闘志を激らせて自在に反応するようになってきていた。
つまり、今のライデンは間違いなく強いのだ。

このライデンをクラシック当時に持って行ったら、ルドルフの三冠を阻止してたかもしれない・・・
そう思うと同時に、そこまで馬を仕上げてきた田沢に脱帽するしかない。
最近、天才とも称せられる事も多くなった澪だが、まだこの田沢と言う天才には及びもしない自分がいる自覚もあったのだ。

「しかし、あのボーズ凄いな」
「そうですよね、本当に」

そんな田沢と澪の会話。
2人が話すのは、デビューした新人ジョッキーの事だ。

その新人騎手の舘は、デビュー当日に初勝利をあげ、そこから勢いよく勝ち進んでいる。
しかも当時、新人最高記録を塗り替えていた澪以上のペースで勝ち進んでいるのだ。

「私もうかうかしてると悠くんに抜かされますね」
「せやな、抜かされる」

濱松厩舎所属とあって澪にとっては弟弟子みたいなもの。
それ故、他の騎手より関わってる時間は多いが、既に新人騎手の域は抜け出してるぐらい上手い。

「そんなぁ・・・オブラートぐらい包んでくれてもぉ」
「オブラートは常に売り切れやねん」

大袈裟に嘆いて見せる澪に田沢もニヤニヤ笑って返す。
互いに冗談ではあるが、舘悠を認めているが故の会話だった。

「福山さんと比べてどうですか?」

ふと、澪はかつて競馬界を席巻した天才の名を口にする。
福山洋ニ。
岡江や柴原と同期の彼は、唯一無二の天才とも呼べる存在だった。
魔法のように勝利した皐月賞でのハードバージの騎乗は、澪を競馬界に誘った大きな要因であり、憧れの存在だった。

「せやな、今のアイツはあの人くらいのインパクトはあるやろな」

流石の田沢でも福山のことを語る時は神妙な顔になる。

「あの人はホンマもんの天才やったからな」
それは幼かった澪にもよくわかる。

ハードバージの皐月賞から2年後、福山は落馬事故で騎手として致命的な重傷を負う。
現在も障害に悩まされ家族共々精神的にきつい思いを抱えている…それゆえ田沢も彼のことを語るときは慎重になる。
福山には息子がいるが、彼が同じ世界にやってくるかどうかはまだわからない。

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