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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 163

控室で田沢が澪に近づいてくる。

「アレやな・・・ミホシンザンは」

そう言う田沢の視線の先にはミホシンザンに騎乗する柴原がいた。

「柴原のオッサン、本気で追ってへんな」

小声でボソリと言うが、その言葉に澪は驚いて田沢を見る。
天才の話は言葉を省き過ぎて分からない事が多いが、これは何となく心当たりがあった。

「もしかして・・・脚元、ですか?・・・」
「せやろな」

天皇賞やジャパンカップでミホシンザンを後ろから見ていた田沢だから気付けたのかもしれない。
いずれもミホシンザンは期待通りの活躍ができていないが、それが脚元の不安で本気を出していないなら納得できる話だ。

「じゃあ、今回も・・・」
「オレの敵はラモーヌって話や」

直接答えず、田沢はニヤッと笑う。
これはミホシンザンの話と言うより、田沢なりに『こっちを意識しておかないと差し切るぞ』と言う話なのだろう。
何を考えてるのやら、やはり天才は訳が分からない。

この名手の大先輩、やっぱり何を考えているのかよくわからない。
少しだけモヤモヤした気分を抱えて澪はラモーヌの元に向かった。
ラモーヌはいつも通り、申し分ない出来だった。

今年の有馬記念は13頭立て。
栗東からの遠征馬はライデンとフレッシュボイスの2頭で、栗東所属の騎手はこの2頭に騎乗する田沢と河井、それに澪の3人だけ。

「今日もよろしくね」
「頑張ってきます。ところで愛美さん、先週の香港はどうでした?」
「どうって、ウィンドは2着だったけど、すごく内容は濃いレースだったよ!」

愛美の充実した顔を見て収穫があった事が見て取れた。
勿論それは澪も感じていた事だ。
実際、仁藤厩舎の香港遠征で調教に対するレベルも上がったし、それが契機で寛子も調教師試験に合格する事に繋がった訳だ。
きっと奥原厩舎も凄い化学反応があったのだろう。

それだけにラモーヌに期待できる。
偉業を成し遂げれるのではないかと・・・
牝馬の勝利となればトウメイ以来、3歳牝馬が勝つとなれば、スターロッチ以来の偉業。
その2頭にラモーヌは勝る存在だと澪は自信を持っていたのだ。

ただジャパンカップの敗戦で指摘されているのは、距離の壁である。
これは奥原厩舎と澪の共通認識で、ラモーヌの最適距離は2000mなのだろうと考えている。
中長距離もこなせるだろうが、得意とする訳ではなく、牡馬のトップクラスと戦った時にハンデとなりうる可能性は充分にあった。

それ故に、今回は戦法も含めてよく考えねばと思っていた所だ。
もしかすると天才田沢は、そんな澪の心理を見越してミホシンザンの状態を教えてくれたのかもしれない。

どっしりと落ち着いていい雰囲気のラモーヌは真ん中の6番枠にすんなり収まり、そのままいいスタートを切る。
先手を奪ったのは3歳のスピード馬レジェンドテイオー。
クシロキングとサクラユタカオーががっちり2番手にマークし、その後ろにミホシンザンとダイナガリバー。
ラモーヌは中団の馬群の中、ライデンはいつも通りの最後尾。
今日はいつにも増してポツーンと離れて追走していた。

田沢と言う天才の思考は全く分からないと言うか、気にしすぎるとペースを乱される。
むしろラモーヌを信じて競馬をする方が得策だと澪は思いながら馬群の中で追走する。
気配を消すかのように中団で息を潜めるイメージで、位置取りだけ注意を払う。

強力な逃げ馬不在で、ペースは長距離戦のような落ち着き。
クシロキングは交わして前に出ようとする意思は無いようだし、サクラユタカオーも距離が距離だけに無理はしない。
その後ろのダイナガリバーやミホシンザンも動きは鈍かった。

焦れて動く馬も特にいない。
本当に不気味な程レースは淡々と進む。

スタンド前に差し掛かり大歓声。
サクラサニーオーがサクラユタカオーを交わして行くが、馬群にそこまで変化は無く1コーナーに向かう。
冬枯れの芝は内側が荒れているのもあり、澪はラモーヌをやや外側に走らせながら追走していった。

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