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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 17

丁度春先から工事していた母馬の馬房と子馬の馬房も完成し、傷んだ牧場の柵も修理し終えた。
以前の馬房の位置には今度は競走馬の休養施設と馬房に立て替える工事にかかっている。
そして秋には、事務所と従業員宿舎が完成する予定で、それをもって新生涼風ファームの第一次工事は終了と言った所だ。

「工事が終わったら泊まっていってくださいね」
「ええ、その時はお願いしますわ」

真奈が工事区画を見ながら言う。
区画の中には樹里用の別荘を兼ねた建物も含まれている。
その中にはパーティのできる広いホールだけでなく、樹里の仕事ができるオフィスも作られる予定だ。

と言うのも、白幡グループの傘下企業の殆どの会長職に樹里はなってはいるものの、代表権の無い会長職である。
基本、樹里本人が動かせる会社は、グループ中枢の持株会社である白幡ホールディングスのみで多くの仕事がある訳では無い。
メインの仕事は資産管理と投資なのである。
つまり、樹里がやっているのは白幡家の当主業であり、仮に北海道に大半滞留しても成り立つのがある。

樹里自身も自分はお飾りだという認識はあるが、だからといって自分が会社を動かすようなノウハウもスキルもない。
幸い傘下企業の社長を筆頭に重役たちは父・健三の信頼が厚かった人たちだし樹里も以前から知っている存在なのですべてを任せることもできる。
娘たちが良いなら移住したっていいとも思っているくらいだ。

「今週のレースも楽しみですね」
「ええ、せっかくですし奈帆ちゃんも一緒にどうかな、なんて思いまして」

その言葉を聞くと、真奈の顔がパッと明るくなった。

「是非っ、お願いします!」
「ふふ、私にとっては可愛い妹ですから」

本人には説明してないようだが、もしかしたら勘付いているかもしれない。
大人びたしっかりした子だから何も言わないだけで、色んな思いを持ってるだろう。


そんな奈帆を連れての週末の札幌観戦。
スターライトブルーは1200mの新馬戦。
シロノライデンは2勝クラスの2600mだ。

8頭立ての新馬戦でスターライトブルーは1番人気。
このメンバーでは調教タイムも抜けていて、新聞の予想欄にも素質馬と書かれているぐらいだった。

「牧場ではどんな感じだったの?」
「普段は凄く甘えん坊なんですけど・・・芯は気が強くてヤンチャでした」

樹里は奈帆に子馬の時の様子を聞きながらパドックの様子を見ていた。
零細牧場だった涼風ファームには育成施設が無いので、基礎だけ教えてある程度の年齢になれば育成牧場に持っていく。
スターライトブルーは牧場では甘えん坊だったが、育成牧場へ行くやいなや、そこのボスになってしまったらしい。

パドックでは落ち着き払っていて、話の合間に聞くラジオ中継の解説者が「まるで古馬かと思うくらいおとなしい」と評するほど。
2歳の若い馬のレースで、パドックで嘶く馬もいる中でもスターライトブルーは一頭冷静そのもの。
そこに内なる闘志を秘めていたら、樹里の中にはさらなる楽しみも出てくる。

スターライトブルーとシロノライデンの鞍上はともに相沢澪騎手。
夏競馬の間は小倉をメインに騎乗機会を得ている彼女だが、今週はこの2頭の為に初めての北海道遠征を行っている。

騎乗指示が出て澪がスターライトブルーの側に寄る。
少し緊張しながら跨ると、馬がブルッと首を振るった。
馬が戦闘態勢に入った・・・
単純に言えばそうなのだが、同じく普段大人しくて変わるタイプのシロノライデンと違い、明らかに変わったのだ。
下げきっていた首が持ち上がり、歩調もキビキビとしてくる。
シロノライデンの闘志の燃え方が種火なら、こちらは猛火だ。

シロノライデンはどちらかと言うとスロースターターで、闘志に火が点くまでが時間がかかる。
普段の調教もやる気を見せず、調教助手を四苦八苦させるタイプだ。
ただ一度火が点けば烈火のように走り出すタイプでもあった。

だが、スターライトブルーは初めから猛火だ。
抑えきれない闘志を溢れさせる。
パドックの前の馬と後ろの馬が距離を取るぐらいの迫力を持つ闘志だった。
調教の時も助手がセーブしないといけないぐらいだが、セーブし過ぎるとヘソを曲げる難しさもある。
故に仁藤調教師も澪に主戦を任すか迷ったようだ。

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