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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 16

だが、そんな牧場経営が一変する事態が起きた。

アローエクスプレスの登場である。
この生粋の快速馬は三冠レースでステイヤー、タニノムーティエに惜敗したものの種牡馬としては大成功を収める。
その種牡馬としての成功を待たずして、競馬界はハイセイコー、トウショウボーイ、テンポイント、マルゼンスキーと一時代を代表するような快速馬が現れてきた。

そしてそれと共に1970年代前半から涼風ファームの経営は苦しさを増し、更に繁殖牝馬の処分をしなければならなかった。
世間がハイセイコーブームに湧き、競馬が盛り上がっていた恩恵にも涼風ファームは届かず、慎太郎は益々馬産の事しか頭に無いようになっていた。

逆に幸子はこの頃には更に健三にのめり込んでいたし、真奈も奈帆を産んでいた。
家庭環境は穏やかに冷えていったが、慎太郎は家庭を省みる事は無く、80年代には牧場経営は完全に行き詰まり、残る牝馬はシーテイストとアキネバーだけになったのだ。

そして、慎太郎は最後の賭けに出る。
名門牧場から良血繁殖牝馬スイートライトを購入して、快速馬の生産をしようと言う賭けだった。

これの購入資金は健三が殆ど出していた。
もう涼風ファームには積み重なった借金しか残って無かったからだ。
それを幸子と真奈が健三に抱かれる事で補填していた面があったぐらいだ。
なので真奈は父が2人が健三に抱かれるのを知ってて黙認していたと思っていた。
ただ、幸子によると経理は全て幸子任せだった慎太郎は、金が無いのは理解していたが、そもそも牧場の経営を考えていたかすら怪しいと思っていた。
幸子と言う伴侶を得たせいで、馬産と言う自分の世界だけに閉じこもってしまったが故に何も見えて無かったのだと今も思っている。

だが、そんな期待のスイートライトは子馬を産んですぐに産褥死。
しかも子馬は牡と言う牧場にとって血を繋げない悪運・・・
慎太郎のショックは計り知れず、その場に倒れ込んだ程だった。
その後、直ぐに進行性の癌が発覚したが、進行のスピードが早かったのもそのショックだったと幸子は思っていた。

唯一の救いだったのはスイートライトが命がけで産んだ最後の仔、スターライトブルーがすこぶる元気に育ってくれたことだった。
母親である繁殖牝馬が死に、その仔まで…というケースだって存在するのは幸子も真奈もわかっていた。

慎太郎は治療の甲斐なく、仔馬のデビューを見ることができずに世を去った。
その直後に健三も病に倒れ、慎太郎の後を追うように逝ってしまう。

幸子も真奈も、これで涼風ファームはお終いだと覚悟していた。

それが樹里が馬主を継いでくれた上に牧場を買い取ってくれた。
もう幸子も真奈も牧場の経営にタッチしていない。
幸子が牧場長、真奈が副牧場長と言う事になっているが、経営権は全く無い。
こうなると樹里の気持ち一つで放り出される事もありうるが、それでも今まで感じなかった安心感がある。
しかも、自分達と匂いが同じ樹里がオーナーになった・・・
こんな幸せな事は無い。
後は良い馬を生産して報いるだけだ。


そして、季節は夏になった。
安田記念では短距離王ハッピープログレスがその強さを見せつけた。
そして中央開催最終のG 1、宝塚記念では休養中の三冠馬と同世代のカツラギエースが快勝。
話題がシンボリルドルフに集まる中、古馬達もしのぎを削っていた。

涼風ファームの方では繁殖牝馬4頭は無事に受胎したと報告があり、スターライトブルーのデビューが決まったのがいい話。
ただ、シロノライデンが2勝クラスで3着と足踏み。
スロー過ぎる展開で前残りと言う残念な結果だった。

まあまだ間に合いますよと仁藤調教師に落胆した様子は特に無かった。
むしろ大型馬だけに夏場沢山使って絞りたいと言う話のようだ。


8月、北海道ー

「うわぁ、ひろーい!!」
「あ、あっちにお馬さんいる…!」

涼風ファームに可愛く賑やかなお客さんがやってきた。
札幌でシロノライデンとスターライトブルーの出走もあり、家族揃って現地観戦するのに合わせて樹里が娘を連れて訪れたのだ。

「あんまり騒ぐとお馬さんビックリしちゃうから気をつけてね」

案内人を買って出たのは奈帆。
妹が出来た気分になって嬉しそうなのが真奈にはよくわかる。

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