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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 146

ハイレベルの一戦だった毎日王冠の上位組が上位人気を占めた。
その中で圧巻のレコード勝ちを決めたスターライトブルーは単勝2倍台の1番人気。
ミホシンザン、サクラユタカオーが続き、シロノライデンはそのあと4番人気。
そこから間が離れてライフタテヤマにクシロキングといった具合だ。

ラストランを迎えるスターライトブルー。
陣営も渾身の仕上げで臨んだ。

引退はどの馬でもいずれ来る。
その殆どが誰にも知られずに去っていくものだ。
スターライトブルーの引退はその中でも最上級の待遇であった。

後はサラブレッドの宿命として血を繋いでいく責務を負う事になる。
むしろそれこそが本題であるし、引退を決めてから陣営も無事に馬産地に帰す事が重要な仕事となった。
だが、それは中途半端に走られて帰すと言う意味では無い。
きっちり仕上げて勝った上で馬産地に凱旋させたいとの意思が込められていた。
皇帝、シンボリルドルフと血統的に競合するスターライトブルーだが、こちらの方が種付け料も安価になるだろうと言う事で日高ではその血を望む馬産家も多い。
スタミナ面ではシンボリルドルフに劣るものの、豊富なスピードは現在の競馬にマッチしてる部分もあって評価が高まるばかりだ。
故にここで勝って、評価を不動のものにしたいと言う思惑もあった。

そんな事から、澪にも結構プレッシャーはある。
無事に帰す事と勝つ事と、2つを同時に成し遂げねばならないのだ。

澪だけじゃなく、仁藤や寛子ら厩舎のスタッフにも普段はないような緊張感がある。
一方で当のスターライトブルーはいつも通りパドックを悠々と闊歩している。ラストランということも知らないかもしれないような普段と変わらない姿である。

「いつものように乗ってこい。それで無事に帰ってきてくれたらええ」
「はい」

そんな風に仁藤から送り出される澪。
パドックでスターライトブルーに跨ると、いつも通り気合がみなぎった歩様となる。

関東でもスターライトブルーの名は知れ渡ってファンがいるようで、パドックでは『漆黒の逃亡者』と言うスターライトブルーの横断幕が掲げられていた。
その異名通り、全てのレースでハナを譲らず、驚異的な粘りとスピードで勝ってきた。
そんな異名を貰えたのも、スターライトブルーが積み重ねてきた実績だろう。

そして、今日も逃げる。
例え潰れて惨敗しても、この馬の生き様がそうなのだ。
相手とか関係無く自分のレースに徹する。
デビューからそうだったように。

「まあ、本当に苦労させられたけど・・・今日は好きに走ればいいわ」

言う事の聞かないスターライトブルーは調教から大変だった覚えがある。
だが、走るのが大好きで、走らずにはいられない性格は我が儘ながら可愛さもあった。
それが今日で最後と思えば涙が出そうになる。

4歳という年齢を考えたらまだ引退は早いなという思いもある。
ただ、現役を続けることでもしかしたら…を考えてしまうと今がいいタイミングなのかもしれない。
仲の良いトラックマンから聞いた話では海外から破格のオファーが舞い込んでいるともいう。
そうだ、この仔とはドバイでも香港でも勝てた。たくさんいい思い出もできた。

本馬場もいつものフットワークで駆けていく。
もしかしたら生涯最高の出来かもしれなかった。

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