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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 144

先頭に立ちそのまま押し切る。
必死に追わずとも勝利する。
最早、牝馬では敵がいないとアピールするように勝ってしまったラモーヌ。
牝馬三冠と言う誰も成し遂げていない偉業を、いとも簡単に成し遂げてしまったのだった。

どう気持ちを表現していいか分からない。
それが今の澪の気持ちだった。
確かにデビューした当初は、沢山勝利してG1も勝つと誓い、それを夢見てきた訳だ。
だが、1勝すら難しい事を思い知らされたし、G1騎乗すら遠いと思った事もあった。

だが、樹里と言う良い馬主に出会い、G1級の馬を任された。
自分でも運がいいと思う。
デビュー時はアイドル的な扱いだった澪が、今や若き名手と呼ばれるようになってきたのも、実力より運と言う風に考えていた。
この牝馬三冠も自分の実力と言うよりは、それを引き寄せた運が良かったと思っていたのだ。

クールダウンするラモーヌを感謝を込めて撫でる。
この馬となら、もっと大きな事ができるような気がしてならないのだった。

大歓声のスタンドの前をウイニングラン。
少し控えめに左手を上げ、その声援に応える。
大変なことを成し遂げた。
でもこれは終わりではないんだ…澪は再び気を引き締めて心に誓う。

「日本の競馬で初めてのトリプルティアラか、素晴らしい馬だな」
「ええ、本当に」

そんな会話をする祐志と樹里。
幼駒の頃からラモーヌの才能を見抜いていた祐志は流石であると、彼の相馬眼を改めて凄いと思う樹里だった。
これで競馬界に敵なし・・・
そう思ってしまうぐらいに、この勝利の衝撃は大きかったのだ。



だが、その偉業から1週間。
衝撃が更なる衝撃で打ち消されてしまった。

そのレース。
富士ステークス。
東京で行われるマイルのG3レース。
マイルチャンピオンシップのトライアル的な扱いであるが、有力馬はローテーション的にもスワンステークスを選ぶ傾向にある為に、中央開催でありながら裏開催的なメンバーが集まる傾向にある。

故にメンバーが多少薄いのもあるが、逆にここで本賞金を稼いでG1へ挑戦と言う野心的な陣営も少なくない。
今回もそんなメンバーが集まった富士ステークス・・・
ただ一頭を除いてはである。


レースは淡々と進み最後の直線。
小気味の良いペースのマイル戦で、直線は追い比べとなる。
そして、残り300m・・・
そこで観客は衝撃を受ける事になった。

最終コーナーでズルズルと下がり、直線に入っても最後方にいた馬。
最後方であるのに、鞍上は笑っていた。
そして、その残り300m・・・
鞭が振り下ろされたのだ。

グンと低くなる身体と共に跳ぶ馬。
その瞬間、時間が止まった。
いや、時間が止まったのでは無い。
大外から駆け上がるこの馬の凄まじいスピードに、その他の馬が止まっているように感じたのだ。

一頭だけが異次元の脚・・・
トップスピードに乗ってる筈の差し馬追込み馬が並ぶ間も無く抜かれていき、先行馬も粘る事も出来ない。
最内を綺麗に抜いてそれこそ表現通り跳びながら駆け上がる凄まじい脚にスタンドすら凍り付く。
たった200mで最後方からゴボウ抜き。
そのまま先頭すら交わして引き離す。

ゴールした時に起きたのは、歓声ではなく静寂・・・
アナウンサーが声を絞り出すように言う。

「・・・これがっ、世界の脚かっ、圧勝ですっ、トリプティク!」

アナウンサーに言葉を詰まらせ、スタンドを黙らせ、ゴール後に鞍上で笑うシャロン。

「あー、大人気なく本気出しちゃったかしらね、トリプティク・・・」

京都競馬場のモニターで観戦していた澪がため息混じりにそう呟く。
ドバイで接戦した時でも感じたあの力は本物だった。
自分以外の騎手、関係者は大変なショックを受けたのではないかと…
規格外のパフォーマンスに乾いた笑いすら浮かんだ。

「マイルであれだけのパフォーマンスしたんだから、マイルCSにでも行ってくれないかな、それだったら楽なんだけどなぁ…」

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