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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 137

双子は、栄養が行き渡らず十分な体力を身につけることができなくなると考えられている為に、そのリスクを忌避して片方が除去された。
つまり、スターオーは残された片割れな訳だ。

だが、生まれた子は脚が曲がっていて病弱と、競走馬になるのは難しい状況。
母馬のサクラスマイルが死んでなければ競走馬にしようと思わなかったと言われている。
そんな馬を競走馬にするべく育成してきた涼風ファームだけにデビュー戦は感慨深いものがあった。

元気そうに歩いているスターオーを見ていると、幸子の胸が張ってくる。
離乳はとっくに過ぎているのに、何故か幸子の乳を欲しがり、幸子もそれを許してきた。
吸うのではなく、滴る母乳を舐めるのだったが、それに感じつつも幸福感もあったのだ。

「無事に走ってくれるだけでいいわ」
「無事に走ればダービーすら勝つ子さ」

心配する幸子の腰を抱き寄せてエリックが微笑む。
スターオーの実力にも仕上げにも自信は持っていた。

デビューの舞台は東京芝1600m。
美浦トレセンに入ってからのサクラスターオーの評判はうなぎ上りだった。
馬体重は450s台と決して大きくはないが、スピード、瞬発力が優れていて、根性もある。

パーソロンの血をつなぐ馬としては、美浦では同世代にマティリアルという馬がかなりの評判だがサクラスターオーもそれに次ぐ評価をすでに得ていた。

そんなサクラスターオーのデビュー戦。
中団に付けて直線で差し切って突き放すと言う圧巻のレースで勝利。
誰もが素質を疑わない内容だった。
そのレースを観戦した幸子は、レース前から泣いていたが、レースが終わってからも涙が止まらなかったのだ。

そして、京都大賞典の方は乗り替わりの田沢がシロノライデンには苦手と思われていた中団待機からの差し切りで連覇。
テン乗りで全く未知の戦術で勝ってしまう辺りが天才の天才所以であった。
そしてインタビューで『ポーンと出たから、スポーンと差した』と田沢語録で締め切っていたが、相変わらず意味不明である。

毎日王冠の方は近年稀に見る豪華メンバーが揃う。
久々復帰の二冠馬ミホシンザン。
遅れてきた大器サクラユタカオー。
3歳の新鋭快速馬ニッポーテイオー。
その他にもスズパレード、スズマッハ、スマホーク、ウインザーノットと重賞常連組が名を連ねる。
それにスターライトブルーと、戦前から激戦が予想された。

とある評論家が『府中の千八展開要らず』と言ったが、この距離は実際に実力勝負の場所と言える。

頭数こそ9頭と少ないが強力なメンバーがそろった前哨戦だ。
ここで余裕をもって勝てるなら次に弾みがつく。

「ウチの馬は格で劣るからね。澪ちゃんとスターライトブルーがどれだけ強い競馬をしてくれるかじっくり見ておこうかな」
「そんな、所先生の馬も夏の上がり馬として注目してますよ?」

栗東からの遠征はスターライトブルーとヤクモデザイヤーの2頭。
控えめなコメントのヤクモデザイヤーの調教師・所とそんな会話を交わす澪。

そう言う上がり馬が一番怖いと澪は思っていた。

とは言え、澪の一番の懸念はニッポーテイオーとウインザーノットだ。
この快速馬2頭の先行力はトップクラスで、スターライトブルーを気持ち良く逃してくれるなんて事はまず無いだろう。
故に戦前からもハイペースが予想されているし、両陣営からも『簡単には逃がさない』との発言もある。
澪も受けて立つ形で『競れるものならどうぞ』と返しているが、過酷なレースになるのは目に見えていた。

そのスターライトブルーは澪が跨ると走れる喜びに奮い立つ。
兎に角走りたいと言うのが調子のバロメータだが、今日の調子はまさにそう言う走りたいを全面に出す好調ぶりだった。

これなら心配無いと思う。
馬がその気なら澪がブレてはいけない。
信じて走らせるだけだ。

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