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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 136

そして直線。
耐えてきた甲斐があったと言うか、ハイペースの短距離戦らしく内側が開く。
その開いた所を澪は狙って鞭を振るった。

瞬時にウィンドフォールが反応して身体を沈み込ませる。
ウィンドフォールにとっては、絶好の勝ちパターンだった。
グイッと伸びたウィンドフォールは3頭程抜かすと、先頭に迫ろうとする。

だが・・・
先頭だったロングハヤブサがヨレたのだ。
しかも大きく内側に。
一瞬にしてコースが狭まり、神経質なウィンドフォールは派手に驚き跳び上がって内柵に当たる。
澪も馬上で大きくバランスを崩してしまった。

「くあっ?!」

何とか落馬は耐えた。
しかし、それは致命的な事になった。
次々と抜かされていくウィンドフォール・・・
もうレースする気を失っているウィンドフォールに、澪は追う事を止めた。

レースはタカラスチールが豪快に差し切ったが、審議のランプ。
何とも後味の悪いレースになってしまったのだ。


検量室で問題の箇所のビデオを見る澪。
ウィンドフォールが過敏に反応してしまった感があり、進路妨害と言うには余りにも微妙なライン。

ロングハヤブサがヨレたのは確かだが、馬をしっかり御せなかった澪にも問題がある。
何度も見返して思わず唇を噛んでしまう。

「下手くそやなぁ」

色々ショックな澪の顔を覗き込むように見たのは、トウショウペガサス騎乗の田沢。

「下手くそな上に、ブスになっとるやん」
「・・・はい、どうせ私は下手くそでブスです!」

頬を膨らます澪。
多分これは田沢なりの励ましなのだろう。

「癖の悪いオッサンが乗っとるんや・・・ああなるで」

当の癖の悪いオッサンは直後に謝ってくれたが、田沢にイジられて『誰がクセの悪いオッサンやねん!』と空元気で怒って見せる。

「まあ、奥原先生には『お詫びとしてオッサンシバいておきます』って言ったらええ」
「・・・いえ、ちゃんと謝りますから」

この人、天才なんだけど天災なんだよなぁと半ば呆れながら返す澪。
だが、お陰で奥原に会っても冷静でいれそうだった。

その奥原だが、勿論怒ってはいなかった。

「競馬だから仕方ないよね」

馬が無事なら良しとしなければと言う所だ。

ウィンドフォールに身体的なダメージはなかったので奥原ら陣営としては一安心。
ただひとり愛美が若干カッカしていて澪は彼女を宥めるのに苦労してしまったのは別の話。
精神面で何らかのトラウマがないのを祈るばかりだ。
何事も無ければ次走はマイルCSの予定。

激戦は次の週も続く。
毎日王冠と京都大賞典だ。

そんな開催当日。
東京競馬場にエリックと幸子が来ていた。
お腹の随分大きな幸子だったが、それなのにここまで来たのは・・・
彼女にとって、大事なレースがあったからだ。

幸子のお目当てのレースは新馬戦。
そこに出走するサクラスターオーこそが、彼女をここまで来させている目的の馬だった。

サクラスターオーは、あのサクラスマイルの84・・・
『サク』の愛称で呼ばれていた馬だ。
涼風ファームで育成され、特に幸子が可愛がっていた。
その縁でサクラのオーナーが、牧場の代表産駒であるスターライトブルーにちなんで名付けたと言う、牧場にとっても強い縁のある馬になっていた。

そんなサクラスターオーの出走とあってソワソワしながらレースを待ち、パドックに向かう幸子。
パドックでは、牧場の頃より少し逞しくなったサクラスターオーが周回していた。

それを見ただけで涙が溢れてしまう幸子。
多くの馬を生産し、送り出して来たが、こんな気持ちになる馬は初めてだった。

涼風ファームにやってきた当初のサクラスターオーはとてもサラブレッドとして出世できるような馬ではなかった。
脚が内向きに曲がっているというハンデ。それでも一生懸命な姿に幸子は心を奪われていった。

エリックは涼風ファームがサクラスターオーの育成の依頼を受けた少し後で、この馬は実は双子の片割れだという話を聞いた。

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