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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 134

阪神の1800mはバックストレッチ奥からのスタートで直線が長い。
だから位置取りも楽なコースである。
奥原がわざわざ関西まで遠征したのはそれもあった。

7番手ぐらいでバックストレッチを走りコーナーに入る。
阪神の大回りの3コーナーから4コーナーはゆったりとした感じがあり、スピードを上げやすい構造だ。
故にコーナーでの動きは激しくなる傾向があった。

今回もその辺りから各馬の動きが激しくなり、中団から後方集団が上がってくる。
それに合わせるように、ラモーヌも位置を上げる。
ただ、澪は少しも追っていない。
ラモーヌ自身が判断して動いているだけだ。
そのまま追う事も無く、直線で先頭集団にいた。

直線に入り、すぐに先頭に立つラモーヌ。
澪は手綱を緩めたままだが、グングンと後続を離していく。
そのまま澪が追う事も無く楽走して引き離していくラモーヌだったが、一頭の馬が猛然と追い込んできた。
ポットテスコレディを猛然と追い込ませてくる松中。
中堅の苦労人にとって初めて回ってきた素質馬だった。

それが、無敗の女王を打ち破る・・・
猛然と追い込んで殆ど並んだ時、誰もがそう思った。

だが・・・
ポットテスコレディの脚がピタリと止まる。
いや、止まったのではない。
ラモーヌが加速したのだ。
少し澪が追うだけで、グンと伸びて加速したラモーヌ。
並んでゴールした2頭だったが、松中が天を仰ぐ。
中堅と呼ばれる年齢となったが、重賞制覇の無い松中・・・
あと一歩と言う所で取り逃した。
そう誰もが思ったのだが、検量室に戻ってきた松中は大きく首を横に振った。

「・・・積んでるエンジンが違い過ぎる」

目を真っ赤にしてボソリとそう言う。
必死に食らいついてのハナ差・・・
こちらは全力だった。
だが、ラモーヌは・・・
本気を出していないと並んで走って理解してしまった。
同じ世代、同じレースでなければ、ポットテスコレディが重賞制覇していた筈だ。
だが、その前には巨大な山脈が聳え立っていたのだった。


逆に澪はと言うと・・・

「遊んでたよね、キミ」

首筋をポンポンと叩きながら澪は苦笑い。
ラモーヌ自身がポットテスコレディが来るのを待っていたように澪には感じた。

澪の呼びかけにも素知らぬ顔のラモーヌ。
夏を越して馬体などさまざまな部分に貫禄が出てきたが、精神面でもさらに図太くなっているように感じた。
ガーベラとは違うタイプの女王様かもしれない。

「本番に向けていい仕上げになったかな」
「かもしれませんね」

奥原と愛美も予想以上のラモーヌの強さに驚くしか無かったのだ。


10月に入りやや涼しさが出た頃。
第一週の土曜日のききょうステークスにはリトルウィング。
そして日曜日にはスプリンターステークスでウィンドフォールが出走する。

更に第二週目には毎日王冠でスターライトブルー、京都大賞典でシロノライデン、更にマイルチャンピオンシップ南部杯にはフルダブルガーベラと、楽しみなレースが続く。

そんな中、澪は選択の時が迫っていた。
澪が選んだのはスターライトブルーだった。
色んな理由があるが、一番の理由はこの馬の去就だった。

実は樹里の元にスターライトブルーの条件の良いシンジケートの話が来ていた。
と言うのも、来年からシンボリルドルフが高額のシンジケートを組まれる事が決まり、その血の代替としてスターライトブルーが望まれたのだった。
シンボリルドルフが10億円のシンジケートと言われているが、スターライトブルーは5億円の設定・・・
それはかなり大きな金額と言えた。

つまり、代替と言われつつも相当な期待はされていると言う事だ。
パーソロンの直系種牡馬は多いものの、血統構成がシンボリルドルフと似ているだけでなく、メジロアサマと近縁。
更にこの抜群のスピード能力と言う事で、生産地が早くその血が欲しいと求めたと言う事だ。

これは競走馬としては最上の上がりであり、血を残す事が最大の宿命たるサラブレッドにとっては大事な事だった。
樹里は仁藤や澪、エリック達も含めて話し合った結果、天皇賞秋での引退を決めたのだ。

無論、マイルチャンピオンシップまで引退を伸ばす考えもあったが、勝った事の無い2000mでのレースに最高の仕上げをする為に、あえてそこでの引退を決めた訳だ。
そう言う理由で、澪が最後まで手綱を取ると決めたのだ。

そして、逆に来年以降も現役続行を決めたシロノライデンの方は・・・
仁藤は京都大賞典から田沢に任せる事にした。
澪の騎乗馬の状況から、天皇賞だけでなく予定しているジャパンカップと有馬記念も田沢に任せるつもりでいた。

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