PiPi's World 投稿小説

駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

の最初へ
 130
 132
の最後へ

駆ける馬 132

「牧場長を譲りたいのです・・・残り少ない女としての時間を子作りと子育てに使いたいので」

彼女の言う事は樹里にもよく理解できる。
樹里だってこの立場が無ければそうしたいからだ。
とは言え、実質的に牧場を動かしているのはエリック達なので、もう幸子の引退は影響が無いのは確かだ。
だが、やはりこの牧場の象徴のような幸子の牧場長と言う立場は小さく無い。

「シロノホマレのようにですか」
「はい・・・彼女のようにです」

窓の外では木陰から子馬達が駆け回るのを眺めているシロノホマレが見えた。
26歳と馬として高齢になってきたものの、元気そのもので牧場を代表するグランマだ。

「次は真奈にと、エリックからもそうするべきと言われています」
「エリックが、ですか・・・」

エリックがやればいいと思うのだが、わざわざ真奈と言う辺りは樹里の事も分かっての言葉なのだろう。

「樹里さんが良いと言うなら、頑張ります」
「勿論です、宜しくお願いします」

エリック達もそう言うのなら樹里に異存は無い。

「共に強い馬を作れるように頑張りましょう」
「ええ」
にこやかに、がっちりと握手を交わす。

「真奈さんも子育てと、いろいろありますから、そっちも無理しないよう」
「エリックたちに任せられるところは任せていきますわ」

涼風ファームは新しい時代に向けて動き出していく。

そして夏の終わりの休暇を過ごした樹里。
来年からは梓が小学生となるので中々自由な休みも減るから少し長めに過ごして帰る。

秋に入ってまずはウィンドフォールがセントウルステークスから始動。
ここからスプリンターステークスに向かう予定だ。

人気上位はコーリンオー、トーアファルコン、トウショウペガサスなど。
それ以外にもロングハヤブサ、イブキバレリーナ、ドウカンテスコ、リードトリプル等が参戦と、短距離G 2らしい強豪メンバーが揃っていた。

ウィンドフォールは短距離の忙しい流れでも対応できるだろうとここを選んできた。
夏を過ぎて逞しくなったのを見て、澪も目を細める。

「言う事はさほど無い・・・スピードを活かしてくれ」

奥原の注文はシンプル。
澪を信頼しての事だ。
澪としても、夏を過ごして逞しくなったウィンドフォールに楽しみしか無かった。

馬体重が10キロ増えていたがこれは成長分。
使い込むと体が細くなってしまうところがあったので仕上がりも抜群だった。

「100点満点の調教ができたよ!」
「それは、ありがとうございます。頑張ります」

自信満々の愛美に微笑む澪。
愛美にとっての澪はすっかりかわいい妹分という感じである。

圧倒的に女の少ない職場だけに、同性と言うだけで連帯感がある。
それだけでなく、お互い仕事が出来ると認めているからこそ仲良くも出来ている面があった。

そして、パドックから本馬場に入ったウィンドフォール。
駆け出す脚に力強さを感じ、澪は鞍上でニヤッと笑ってしまう。
待避馬に入っても神経質な素振りも随分と抑えられて、古馬のような佇まいになってきていた。

精神的にも逞しさが出た事は肉体的な成長より大きいかもしれない。
ファバージ産駒はスピードこそ素晴らしいものの成長力に乏しいイメージがあったが、この馬は違うらしい。
奥原や愛美は母系のいい所が出ていると言っていたが、配合によってそんな風に変化するサラブレッドと言うのは面白いと感じてしまう澪だった。

精神的な成長はゲート前でも現れていた。
神経質でゲートがそこまで得意とは言わないウィンドフォールだったが、気にしつつも素直にゲートに入る。
これも澪が感心してしまうぐらいの変化だった。

SNSでこの小説を紹介

スポーツの他のリレー小説

こちらから小説を探す