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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 117

そしてダービーはウィンドフォールは不参加で休養。
疲れが出たのと、距離適正を考慮しての事だ。
レースの方は吉野の所有馬ダイナガリバーが戴冠。
大牧場がようやく初めての栄冠を手に入れたのだった。

「おめでとうございます」
「ありがとうございます・・・これでもう思い残す事も無いですよ」

涼風ファームに訪れた吉野を祝福する樹里。
吉野の視線の先には、シロノホマレや子馬達に混ざって草を食むシャダイソフィアがいた。
馬体は細く小さいが、ゆっくりでも自分の脚で歩いている。

「あの子も生きている・・・それだけで良いですよ」

吉野の言葉。
プロの馬産家である彼から見ても、シャダイソフィアが繁殖に使えないだろうと言うのは理解している。
生き延びるだけで生命力を大きく使った馬が妊娠と言う事に耐えれない可能性が高い。
人によって産み出されたサラブレッドは繊細かつ弱い生き物なのだ。

その吉野とは安田記念で所有馬同士が激闘する。
そしてその前にフルダブルガーベラの関東オークスがある。

舞台は川崎競馬場のダート2100m。
さらに距離が伸びるが折り合い面で徐々に成長がみられるので心配はない、と仁藤は自信を見せる。

ドバイでも経験したナイター競馬。
地方競馬でもこのような試みを行う競馬場が増えている。
ガーベラの帰国後初戦ということもあって多くの観客が詰めかけていた。

何時も通り、パドックでは若干煩い。
煩いと言うか、他馬を威嚇している。
ドバイでもそうだったが、見知らぬ馬がいるとボス気質が目覚めてマウンティングしてしまう癖がある。
何時も通りのガーベラ様だと言えばその通りだ。

『鉄火場』とか『牝馬の川崎』と称せられる川崎競馬場は小さくて小回りで平坦と言う地方競馬場らしいコースだ。
左回りで一周は1200mと小さく、関東オークスの2100mだと向こう正面から2周半するレースとなる。

土質はそんなに悪くないが、小回りで狭いコースはかなりテクニカルである。
故に鉄火場と称される程、ジョッキー同士の駆け引きや争いが激しく、荒っぽさでも関東随一であった。
因みに澪もジョッキールームに入った瞬間、威嚇されていたりする。

「嬢ちゃん、ここはお遊戯会場じゃねえぞ」

そう声をかけてくれただけマシ。
挨拶しても睨み返されて無視と言うのが多い。
殆どが『中央の客寄せパンダが荒らしに来やがって』と言った非友好的な空気だった。

地方交流重賞という枠組みができて数年。
地方と中央の馬や人の行き来は活発にはなったが人間同士の「交流」は程遠いのが現状だったりする。
地方競馬の人間というのは中央がなんぼのもんじゃといった具合に対抗意識をメラメラと燃やし、打ち負かす気で挑んでくる。
もちろんそんな気持ちもイヤではないのだが。

それも闘志に変えてくれるのがガーベラ様である。
今日もスタートを決めて果敢に先行する。

だが、ここからが『鉄火場』川崎の始まりだった。

先頭でレースを引っ張るのは地元川崎の名手佐々井。
佐々井マジックと呼ばれる逃げの名手がハナを切る。
それに追走しようとするガーベラに内と外から馬体を合わせて挟んでくるものがいた。
その外側は、2番人気の浦和のハルナオーギ。
前に逃げ馬、左右に馬体が当たるぐらいの距離で2頭に挟まれて身動きできない・・・
これぞ地方の洗礼だった。

しかも、逃げ馬が絶妙な距離で走るものだから、モロに蹴り上げた砂が澪に浴びせられる。
それを避ける事が2頭に挟まれて出来ない。
実に巧妙な嫌がらせで、一周目のスタンド前でもう澪の口の中は砂の味がした。

それどころか、時折馬体同士がぶつかり合う。
こんな危険な事は中央ではすぐ制裁対象だが、ここは鉄火場川崎だ。
そんなのお構い無しにぶち当ててくる。
その度にガーベラのストレスが溜まっていくのを感じていたが、澪もそれは同じだった。

分かっているのは、示し合わせた訳ではないが、地方騎手達が中央何するものぞと潰しにかかっていると言う事。
全日本2歳優駿でやられたお返しのつもりなのだろう。

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