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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 116

ダイナアクトレスが動いたのをきっかけに、先行勢から一気にペースアップしていく。
ポットテスコレディもそれに続く。
ラモーヌが動く前に、こちらが動く―その判断は間違いではない。

だが。
ラモーヌも外から一気に動いて4コーナーを曲がった時にはすでに先頭を射程圏に捉えていたのだ。

直線に入る。
だが、澪はまだ持ったままだ。
持ったままでまラモーヌは充分追走できている。

澪が動いたのは、残り300mの所。
鞭を一閃させただけで、ラモーヌは待ってましたとばかりにグンと身体を沈み込ませて低く跳ぶ。

瞬く間に前を追い越し、突き放す。
一頭だけ次元が違った。
大きく引き離してゴール。
危なげない完勝だった。

ウイニングランが心地よい。
勝った高揚感もあるが、何より無事に終わってホッとした。
苦戦はしないと思っていたが、思った以上だった。

樹里も馬主席で見ながら、感慨深げだった。
初めて見た時は可愛らしいだけの子馬だった。
素人の樹里には、その子馬が走るかどうかなんて分からなかったが、利発で意志の強そうな目に引き込まれるような感覚だったのが印象にあった。

「この仔が牧場の救世主になってくれたら」

初めて涼風ファームを訪れた時にはそんな思いを抱いていた。
誰にもこの仔を売らないと大人に歯向かった奈帆の思いの強さも。
奥原ら厩舎スタッフの自信も本物だった。改めて実感した。

「ありがとうございます」
「いえいえ、こんな素晴らしい馬を任せてもらえて我々の方こそ感謝しないと…」

牝馬クラシック二冠目。
残るは秋華賞だ。

その次の週の土曜日。
未勝利戦でひょっこりと勝った馬がいた。
プチソレイユだ。

一月にデビューしたものの、結果は3着。
2戦目は4着、3戦目は2着と勝ちきれずにいた。

小さな馬体で一生懸命には走るのだが、結果が出ない。
だが、仁藤も澪もそこまで焦りは無かった。

「気長に見守ってやってください」

そう仁藤が笑って言う。
確かにトップレベルの馬は初戦勝ち上がりも多いが、勝ち上がりが遅い馬でも後に名馬になった例もある。
仁藤もプチソレイユの能力は水準以上と見ていたから、敗戦続きでも焦る事も無かった。

ただ、澪は・・・

「やればできる子なんだけどねぇ」

レース終わりに汗だくの澪がため息混じりに言う。
能力はある。
だが、レースになるとヒートアップし過ぎて失速するのを繰り返していた。
皮肉な事に真面目に走る性格が災いしているのだ。

なので今回の勝利は澪があらゆる手で宥めたり抑えたりしながら競り勝ったもので、澪も心底バテるぐらい格闘する羽目になった。

スターライトブルーとは違ってあらゆる手を尽くしてやっと結果が出る、という現状。
仁藤は「まだまだこれからの馬」と長い目で見ているが、澪はクラスが上がってからの苦戦を覚悟していた。

初勝利を挙げたプチソレイユは少し疲れがあるのでいったん休養させるという判断。
真面目に走る性格は、そういうところでも影響が出てしまうのだ。

馬は一頭一頭違う生き物。樹里も十分承知している。

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