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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 111

澪は前のレースから芝の状態を探っていた。
そして、天皇賞開始前の返し馬でもあえてゆっくりと馬場を回る。

確かに重馬場だけあって滑る。
ゆっくりで滑っている感があるから、これでギアがかかって大跳びになると相当滑るだろう。
シロノライデンには不利な馬場だ。

だが、昨年秋から勝てていないシロノライデン。
特に今回は得意距離だけに、何としてでも勝たせてやりたい気持ちがある。

色々探りながら待避場に向かい、心落ち着かせながら出走の時を待つ。
走る馬がメインである競馬にあって、長距離戦は最もジョッキーの腕と経験が試される。
特にG1となれば名手揃い。
その駆け引きも重要だ。

去年の天皇賞はルドルフに後一歩まで迫った。
今年はルドルフ程強い相手はいない。
ならばやれる筈・・・
そう心に刻みつけながら、澪はファンファーレを聞いていたのだ。


ゲートが開き、各馬飛び出す。
相変わらずゆっくりなスタートでライデンは最後方に位置する。

ラウンドボウルが果敢に単騎逃げ。
シャイニングルビーが続き、好位にはトーマスとモンスニー、メジロの勝負服が二つ。
サクラユタカオーはその後ろの5、6番手グループ。
スダホークとクシロキングはシロノライデンの手前の後方集団という位置どりで1周目のゴール板を通過する。
向こう正面に入ると流れが完全に落ち着いてスローペースになる。

ただやはり脚元は気になる。
今の所、ライデンは気にせず走ってくれているが、本来苦手な馬場だ。
新しい蹄鉄の効果もあるのだろうが、あの大敗したジャパンカップに比べれば段違いではあった。

ただペースが長距離とは言え遅い。
遅くて焦れるタイプでは無いが、仕掛け所は難しい。
そう多くの騎手が思っているだろう。
澪を除いて。

バックストレッチから3コーナーに入る所。
シロノライデンが動いたのだ。
澪が手を動かし、シロノライデンが大外を駆け上がっていく。
セオリー破りと言われる坂を駆け上がった。

この意表をつくシロノライデンの動きに各騎手に緊張感が走る。
余りにも早い仕掛け過ぎる。

そんな事は澪も分かっている。
普通の戦術で戦うには条件が悪すぎる・・・
ならばと腹を括って、大勝負に出た訳だ。

シロノライデンのロングスパートに触発され、各馬一気にペースが上がる。
4コーナーの坂で各馬ペースを上げながら、馬群は横一杯に広がったのだ。

直線入ってシロノライデンは10番手辺り。
だが・・・
その位置は大外も大外。
外ラチ近くだった。

粘るラウンドボウル。
それを交わすメジロトーマス。
シロノライデンに触発され、早めに動いたスダホークとクシロキングは馬場の真ん中。
さらにはフリートホープにハクリョウベル。
勝負所で後退したシャイニングルビーも巻き返してきた。
そして大外にシロノライデン。
大混戦の一戦はまるでハンデ戦のごとく内外馬場いっぱいを使っての追い比べ合戦となった。

最後の追い比べ。
脚を使ったスダホークは苦しくなり失速。
ゴールが近くなるにつれて1頭ずつ脚色が悪くなり、最後は内からメジロトーマス、フリートホープ、クシロキング、シロノライデンの4頭の競り合い。

その中でも大外のシロノライデンの伸びが抜群だった。
重馬場が苦手な筈のシロノライデンが一番伸びている。
何故なのか・・・
それを知るのはスダホークの鞍上で笑いながら舌打ちする田沢だった。

この天皇賞の前のレース・・・
人気薄の追い込み馬で大穴を開けた田沢。
そのレースで人気サイドで2着だった澪はその一部始終を見ていた。
その時に田沢が追い込んだ場所こそ、この外ラチ沿いだったのだ。
実はその外ラチ沿いだけが馬場が回復していた訳だ。

負けたレースから応用して使う・・・
これが澪の成長だった。
田沢が笑いながら舌打ちしたのは、その成長を感じたからだった。

唯一回復した馬場を通るシロノライデン。
残り200mで先頭を捉え・・・
そして交わしきる。

そのまま脚を伸ばし、クシロキングの猛追を凌いでゴール。
この勝利は澪の騎乗がトップレベルの騎手達に並んだと言う証明になったのだった。

デビューの年で重賞勝利。
2年目にはG1勝利。
そして今年は八大競争勝利と、着実にステップアップを果たした。

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