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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 104

サクラスマイルの84こと『サク』は一時期の弱さが解消しつつあり、吉野から貰った2頭の育成馬と共に過ごすようになっていた。
ただ、まだ脚元の負荷のかかる調教は控え目で、プールとウッドチップコースがメインのプログラムであった。
それでもこうやって3頭で放牧させていれば、仲良く遊んだりするようになって逞しさが出てきた気もしていた。

「サクは大きな仕事をするよ」

エリックは自信ありげに言いながら幸子の腰を抱き寄せる。
幸子の腕には長男・・・
幸太郎と名付けられた子が眠っている。
幸子からと慎太郎から取られたこの名前は、実はエリックが選んだ。
私なら付けない名前だわと笑っていたが、新しい技術や知識を持ち込みながらも、牧場の伝統を守ってくれている所が凄く有り難くもあった。

因みに真奈の子供は慎一と、同じく慎太郎から名前を取っている。

「牧場にはそれぞれ歴史があるし、その歴史と言うのを紡いでいくのがサラブレッドの生産なのさ」

こう言うロマンティックな事も恥ずかしげもなく言うのもエリックだ。

彼の故郷、スノーベリー牧場は、彼らの先祖がイギリス王室から馬を下賜されて牧場を開設した士爵だと言う。
故にアイルランドにありながら、イギリス人的な誇りがあると言っていたのもそれだ。
そんな事もあってか、エリック達が意外にも大事にしている馬が功労馬であるシロノホマレだった。

シーテイストやアキネバーを産み、最後に大物のシロノライデンを出したシロノホマレ。
遡ると真奈の曾祖父が海外から購入したライトオブスターと言う牝馬に行き着く。
その娘であるホマレボシ、そして更にその娘であるホマレスズカゼが良い成績を上げる子を沢山産んだ事が、祖父の代に馬産専門の牧場に転換するきっかけになった。
特にホマレスズカゼは涼風ファームの名前の元となったのだ。

そこから何代も経た先がシロノホマレであり、この系統が最後まで残されたのも牧場の歴史からだった。
飛び抜けた能力を持つ子は代々輩出していないが、総じて健康かつ丈夫で大柄な子を産む傾向にある。
その中でも、エリックはシーテイストには可能性があるかもしれないと思っていたらしい。

そのシーテイストの父はノーザンテースト。
フランスでフォレ賞というGTは勝ったものの、それくらいしか目立った勝ち鞍はない。
しかし欧州で猛威を振るったノーザンダンサー産駒ということもあって種牡馬入りし、日本に輸入。その後の活躍は言うまでもない。

ノーザンテーストはあの吉野善太が息子の照樹に「ノーザンダンサーの産駒を買ってこい」と命じ、照樹が日本円にして3000万ほどで購入し、欧州で走らせた馬である。

余談だが吉野はこの数年前にセダンという種牡馬を競馬界との争奪戦の末買い逃すという憂き目にあっており、それを挽回するために手に入れたのがこのノーザンテーストだった―とも言われている。

だが、その満を持して購入したノーザンテーストの馬産地の人気は最悪だった。
小柄で不恰好な馬体に『ヤギかイヌか?』と揶揄されて相手が集まらなかったのだ。

そんな時に、ノーザンテーストに目をつけて、わざわざ日高から種付けに来たのが慎太郎だった。
ノーザンテーストの骨格の素晴らしさを見て気に入り、シロノホマレを連れてきたのだ。
後にその時の話を吉野に聞いた所、シロノホマレの雄大かつ綺麗な馬体と不恰好なノーザンテーストの組み合わせが『美女と野獣』のようだったと語っていた。

その後、受胎した子は、健三の元でシーテイストと名付けられ競走馬として走り、重賞勝ちこそ無かったもののオープン馬にはなった。
競走馬として成功したとは言い難いが、牝馬の本番は繁殖に入ってからである。
更にシロノライデンが活躍した事で期待もされていた。

「今年も良い相手を探してやらないとな・・・勿論、ママとマナは俺が孕ませてやる」

その言葉に幸子は喜びで身を震わす。
身体が自分はまだ女で、孕みたがっているのを再認識してしまう。

「まだ産めるなんて奇跡を貰ったんだから・・・終わるその日まで産むわ」
「勿論そのつもりだ」

抱き寄せられキスをする。
こんな歳になって女の幸せを得れる事が何よりも幸福な幸子だった。


そして季節はクラシックシーズンに入る。
桜花賞にはリュウノラモーヌ。
皐月賞にはウィンドフォールが登録している。
ラモーヌの方は順調そのものだが、ウィンドフォールは敗戦で立て直しをしているものの、多少不安を残しての参戦となる。
奥原は、皐月賞の結果を見てウィンドフォールの次走をダービーにするかNHKマイルにするかを選択するつもりでいた。

記者の中には『未熟な柴原善仁を乗せたから負けた』と言う者もいた。
だが、そうなら奥原も悩まない。
善仁は抜群とは言わないが無難に乗った。
騎手が無難に乗って勝てなかった事が問題なのだ。
勿論、一週間開催が遅れた影響もあったのだが、もう少し一流所と戦う上積みが欲しいと言うのが分かった敗戦だった。

当然たが、樹里からは敗戦の報告を受けて労いの言葉しか貰ってない。
信頼されているからだろうが、だからこそ立て直したい思いが強い。

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