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アイドルジョッキーの歩む道は
官能リレー小説 - スポーツ

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アイドルジョッキーの歩む道は 74

そんな5月には地元で大きなレースがある。
豆州湊スプリントカップ。
春の短距離王決定戦だが、1100mと半端な距離のレースである。
しかし、他の地方競馬からの遠征もたまにある大レースであり、3歳以上なら出走できるのだ。
とは言え、3歳馬が勝った事は少ない。

当然、碧はジェイアルトゥーベで出走予定だが、ライバルは昨年の地元短距離王のドンスピリット。
レジェンド谷口が主戦騎手だ。
このドンスピリットはダート1400m以下なら地方競馬最強格とも言われ、五歳にして充実期を迎えていた。
中段からきっちり差しきる脚を持ち、ここでも本命であろう。

それと木原厩舎のエース、ライヴタイム。
これは碧と共に戦ってきた4歳馬でドンスピリットに迫る実力を持っていた。
今回、碧から乗り代わりとなるが、なんと騎乗するのは前岡であった。
今年の彼は相変わらず強引な騎乗であるものの、地元リーディングで碧と首位争いをしている相手だった。

そのリーディング争いは例年以上に熾烈で、碧と前岡、それに谷口の三つ巴状態。
ちょうどスプリントカップの騎乗馬の人気とマッチしたような雰囲気だ。
4位以下も大きく離れているわけではなく松戸と石川誠、野田順平の3人が僅差。
石川と野田は碧とも歳が近い若手だ。


「今回はなぜ前岡さんに?」
「お手馬が直前に故障回避して悔しがってるって聞いたの」
「ああ、それで」
「それに、彼も紗英ちゃんや碧ちゃんに対して考えが変わってきてるのよ」

こっそり事の真相を尋ねた茜に、美智子の答えはこんな風であった。

そんな風に美智子が言うものの、碧から見ると前岡の態度は変化がない。
会話は無いし睨んでくるし、『調子に乗るなよ』とか『このビッチが』とか罵詈雑言もある。
まあ、どちらも心当たりがあるし、さほど気にしてないが、碧から見た限りは前岡の印象は以前と変わらないのだ。

「以前と違って碧ちゃんの技術は彼はリスペクトできてると思うよ・・・ああ見えても競馬に対しては純粋だから」
「・・・まぁ、貪欲なのは知ってますけど・・・純粋ねぇ」

以外と擁護する美智子に余り納得できてない碧。

「まぁ、彼がああなのは野川と以前の黒崎厩舎とのわだかまりだから・・・その辺は仕方ないかな」

美智子の口振りだと何かがあったんだろう。

前岡剛典の父、前岡健雄は紗英の父、黒崎新五郎と並び豆州湊のトップトレーナーだ。
前岡家と黒崎家はかつては同じ一門だったと聞くが…碧は複雑な思いをいったん心にしまっておく。


スプリントカップ、レース当日。
天気は快晴だが、前日までの雨で重馬場。
ジェイアルトゥーベにとってはさして問題ではない。

碧は親しい顔を見つけ肩をポン、と叩く。

「あ、碧さん…あ、どうも…」
「エレナちゃん挙動不審過ぎ。可愛いのにもったいないぞー」

笠松競馬の女性騎手、橋本エレナ。
ハーフの美少女騎手だが、極度の人見知りなのだ。

エレナは今年デビューしたばかりの新人。
その他地区の新人を何故に知っているかと言えば、彼女の両親と碧が親しいからだ。

エレナの母親は橋本千穂。
碧の母の同期であり盟友とも言える存在。
今は笠松の調教師だ。

そして父親だが、これまた異色の経歴。
アメリカ生まれの騎手、アルフレッド・ローランド。
若き日に日本遠征で日本にハマり、笠松に居着いてしまったと言う人物で、現在も現役騎手である。
日本国籍も収得済みで、橋本アルフレッドを本名にしてるが、騎手としての名前は以前のままにしている。
碧にとってアルフレッドは手本としている騎手の一人であった。

「アルフレッドさんは別の所?」
「はい・・・パパは地元から出たくないって・・・」

アルフレッドの性格からして本心の言葉だろう。
岐阜県をこよなく愛する彼は名古屋までぐらいしか滅多と遠征しない。

「だから・・・ママが遠征はエレナがしちゃえばいいって・・・」

確かに新人なのに豆州湊に来るのはこれで3回目。
碧の新人時代を考えてもかなり多い。

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